血管交換シヨ?
「どんな方法で交換すんの。教えてよ」

血管の交換なんてできっこない。

なのに指先の一本一本、
ツキくんの吐息、
筋肉の収縮、
「スズ」って呼んでくれる声。

素肌の隙間に潜り込んで、
全部が細胞に溶けてゆくみたいだった。

ツキくんから滲む汗が
スズの素肌を湿らせる。

明日世界中から死ねって言われても
後悔なんてしない。

ワッフル生地の薄いブランケットを
ツキくんは壊れ物を扱うみたいにスズの肩までそっと掛けてくれた。

今までは居られなかった距離で
素肌に耳を近づけていたら、
心臓に近いところからトクン、トクンって鼓動が聴こえてくる。

教室で会うツキくんからは
絶対に聴こえない音。

一定のリズムで生きている。

「なんでこんなことしたの」

「誰にも言えないような悪いことしたくなる時、ない?」

ツキくんの指先がスズの髪を撫でる。

誰にも言えないような、悪いこと。

スズとツキくんの行為は間違いなく″過ち″で、
誰にも言えないような、悪いこと。

麻薬だ。

この人は麻薬なんだ。

そう分かっているのにもう、スズは抜け出せない。

そんなことを言われてもスズは傷つく感情すら持っていない。

この人を失くしてしまうくらいなら
世界中を敵に回したっていい。

どんなに悪いことでも
二度とちゃんと、スズに戻れなくても。
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