アンチ・ラブストーリー
妄想甚だしいユキは置いといたとしても、登校中から今尚続いてヒシヒシと感じる視線から察するに、その噂はかなり広範囲に渡って囁かれていることが予測される。

…はぁ。
さっきから感じる妙な緊張感はこのせいだったのか…。

…何ですか、ユキさんや。
そんな目で見ても、ラブなイベントなんか発生してないんだからしようがないでしょ。

つうかそもそもフラグさえ立っていない。


だいたい何でこんな広まってんの、と愚痴を零そうと口を開こうとした時だった。


ざわ、と教室がざわめく。

ユキが面白そうに笑う。

「あらぁ旦那がいらしたみたいよ」


噂の張本人らの片割れ。そう、奴が登校なさったのだ。

奴は自分に集まる好奇の目なんかを一切スルーして、狭い机の合間を縫って自分の席につき、どさりと重量感のある音を立てて机に鞄を叩きつける様に置く。

そして振り返る。


「なんか面白いこと喋れ」


朝の一言目がそれかい!

ちなみにもうお分かりだろうが一応言っておこう。
奴の席はイトウ君の左斜め前。私は彼の左隣だ。
必然的に合うことになる奴と私の目。
偉そうに椅子に体を寄せるその傲慢な態度にイラッとしてしまうのは、私の心が狭い故ですか?


ふんぞり返る奴
うなだれる私

……ハァ。


何にせよ、こうしてまた新しい1日は始まっていく。


水瀬一希。


奴が転校してきて五日目の今日。それぞれの思いと共に、はい、スタート。


いらっしゃいませ騒がしい未来!

――そう。多分もう、戻れやしない日々へ、別れを告げて。


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