アンチ・ラブストーリー
Hello,miracle days.
―――遡るは四日前になる。
朝のショートホームルーム。
担任の横にダルそうに立つ男子生徒に、クラスの好奇心は一斉に向けられていた。
「今日から2‐Cの仲間になる水瀬一希(みなせかずき)君だ。みんなぁ仲良くするように」
お約束の台詞により紹介された転校生の肩に手を置き、担任がそっと彼を前に押し出し自己紹介を促す。
彼の首に掛かっているオレンジ色のヘッドフォンが、小さく揺れる。
彼は担任にされるがままに一歩前に歩み出て、俯きっぱなしだった顔を初めて真っ直ぐに上げた。
ぐるり、と当たりを見渡すその顔立ちの良さに、周囲は息を飲む。
輪郭、目鼻立ち、流れる少し茶色掛かった髪。
どこからどうみても、水瀬一希はとんでもないイケメンだった。
「水瀬一希。好きなものは愉しいこと、嫌いなものはつまらないこと。別に宜しくはしてくれなくていい」
いやしかし、ただのイケメンでもなかった。
心地よいテノールから発せられるのは、思いもよらず辛辣な言葉だった。
転校初日にバッサリと交友関係への期待をぶった切る転校生がどこにいよう。…まぁ、ここにいらっしゃるわけですが。
何にせよ、我々クラスと水瀬一希とのファーストコンタクトは、オイオイどうすっべよ…な雰囲気になりかけた所を慌てて無理やり纏めた担任によって、微妙な空気を漂わせ終わりを告げたのであった。