今宵も貴方は何処かへ…

最近、私はある事で頭を抱えている。


それは、夫が浮気しているかも知れないという事だ。


私は、昔から人のちょっとした変化に敏感な方でもなく、どちらかと言えば鈍感な方だと思っていた。


 昔付き合っていた元カレが三股していた時だって、洋服からいつもと違う香水が仄かに香っていた事も、今日は違う匂いがするけどそういう気分だったのかなとか、彼のジーパンのポケットに女物でも男物でもありそうなピアスが入っていた事も、ピアスとか付けるんだって、彼の新たな一面を知れた事に嬉しさを感じていたし、記念日でも誕生日でもないのに(本当は浮気相手にプレゼントしたのだが、気に入らないと断られたので仕方なく)プレゼントしてくれた時だって、こんなに私の事思ってくれてるんだ!嬉しい!と、感激でただただ疑う事もせずそのままを受け入れてきた。


 それなのに…


「お前といるとつまらない」


梨花(りか)は結婚相手にはちょっと無理だ...ごめん」


「可愛くないんだよなあ。顔じゃなくて、性格の方ね」

 
などなど、思い出せば腑が煮え繰り返るような事を悪びれも無く言い、歴代の元カレ達は皆、自分の最低な行為の数々は棚に置いて私の事を散々裏切ってきた。


 いやいや、浮気するあんたらの方が結婚相手とか無理だし、結婚したら確実にろくな人生にならないから!


 今の私だったら冷静にツッコミを入れるんだけど、あの頃の私は浮気される私の方が悪いんだと本当に思い込んでいた。


 そもそも何故このようなクズ男たちと付き合おうと思ったのか、こんなクズ男達と長く付き合っていたのか、自分でも不思議だ。


 若かったのか、素直だったのか、それとも無知すぎたのか...
.

 このような苦い経験のお陰で、その後の恋愛には慎重に対応していく事になるのだから、必然的な過程であったと今ならそれを飲み込むことが出来るのだけれど....


 朝の家事を一通り終わらせた後、ゆっくりと椅子に座り、少し苦目のコーヒーを啜った。


 慌しかった心と身体を落ち着かせるように、体の中心にじんわりと温かい物が流れていく。


 「...あの人は違うわ......」


 コーヒーをもう一度啜り、疑念を濁していく。


 リビングにコーヒーを啜る音だけが、響いている。



 最後の元カレと別れてからは5年が経った。



 その5年の間にたくさん景色が変わった。



 男性に対する自分の見る目が信じられなくなり、男性不になった。


 こんな辛い思いばかりするなら恋愛なんてもううんざりだと、結婚願望が消えた。


 その後、告白を受ける事はあったのだけれど、どうしても一歩踏み込む事が出来ずに断った。


 だが、25歳を過ぎた辺りから両親が私の結婚に焦り出し、お見合い話を進めるようになってきた。


 両親が勧める縁談でも、いくらその男性が良い人だったとしても、自分の見る目にはとことん飽き飽きしていたのだから、また同じことの繰り返しが起こると思うと怖くて仕方なかった。


 もちろん私の反応が薄かったせいもあり、早々と男性の方からお断りの連絡が来た。


 自分でもなんとか克服しようと、マッチングアプリに登録して何人かの男性にも会ったりしたのだが、症状はむしろ悪くなる一方だった。


 ピンと来る出会いがなかったのだ。


 もういっその事、私の意見など関係なく、誰かが決めてくれないかなとすら思っていた。



 あの頃、一番仲が良い友達の美紀には、その度にたくさん患痴や相談を聞いてもらっていたっけ...。


 「本当、美紀には申し訳なかったなぁ..」


 恋愛したくない、結婚なんてどうでも良い、親からの干渉は逃れたい。


 これをずっと循環していた時だった。



 予想もしていなかった出会いが訪れたのだ…ーーー


 
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