今宵も貴方は何処かへ…
気が動転して、どうしても課長の顔を見れない。
「..課長は、おじさんなんかじゃないです!とてもかっこよくて...私には勿体なさ過ぎます。..私なんかより、可愛い子はたくさんいるのに、どうして私なんですか...?」
それは本心だった。
同僚の女の子たちは、みんな顔面偏差値が高くて男ウケする可愛い子達ばかりで、課長は別世界の人だと思っていたし、私なんかじゃ到底釣り合わない。
なのに、何故こんな私を..?
ちらりと課長の方を見ると、口に手を当てて控えめに笑っていた。
「何が可笑しいんですか...?」
私は少しムッとして問いかける。
それでも課長は笑いを抑えられないまま、
「いやいや、そんなこと言われたのは初めてで..笑ってしまいすみません。僕の方が鮫島さんみたいに若くて可愛らしい方には勿体無いと思いますが。実際..いまだに独身で恋人は10年以上いないんですよ」
と、言葉の最後の方は寂しげで、どこか少しだけ陰のある言い方だった。
10年以上という事は、それまでは彼女がいたという事になる。
「過去に何かあったんですか....?」
こんなことを聞いて良いものか迷ったが、理由が知りたいと思った。
課長は、自分で言った手前どこまで話そうか迷ったのか、ややあって少しずつ口を開いてくれた。
昔から女性と会話するのが苦手だったこと、過去に付き合った女性との間に苦い経験があった事など食事をしながら話してくれた。
私の中で課長は、そう言った経験と無縁の人だと思っていたので、一気に親近感が湧いて、私も過去の恋愛の話しをしていた。
課長は優しい眼差しで時々相槌を打ったりして、私の話を最後まで真剣に聞いてくれた。
課長はとても居心地が良かった。
元カレ達にはこんな安心感を覚えた事はなかった。
目の前にいる課長は、会社にいる時のクールで無口な印象とは全く違っていて、私は物凄いスピードで心惹かれていくのを感じた一。
この出来事がきっかけとなり、私達は急激に距離を縮めて、交際半年の末結婚する事になるのだが、
まさかあんな事になるなんて、幸せ真っ只中のこの時の私には知る由もなかったーーー。