悪事通報アプリ
イジメ
グラウンドからは部活動に励んでいる生徒たちの掛け声が聞こえてくるし、部室棟からは演劇部の発声練習や吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。

放課後と言っても校舎内が静かになることはなく、いつも騒がしい。
そんな中私がいるここだけはとても静かで、そしてジメジメと湿気が多く肌に絡みついてくる。

「ねぇ、ちょっとライターくらい持ってないわけ?」
大津池高校1年A組の松草美羽がカバンからタバコを取り出してそう聞いてきた。

私はうつむいて自分の汚れた運動靴へと視線を落とし「持ってない」と、小さな声で答えた。
先週買い替えたばかりの真っ白な運動靴はすでに何ヶ月も履き古したように汚れてしまっている。

それこもれもついさっきこの美羽に散々踏みつけられたことが原因だった。
『ほーら、これでビンテージ感出たじゃん!』

と仲間と大笑いしていた。
「なに優等生ぶってんの? ねぇ蒼?」
美羽が蒼と呼んだ少女へと視線を向ける。

蒼はストレートのロングヘアーを胸まで伸ばした美人系の女子生徒だ。
美羽はそれとは真逆で、ふわりとした髪質をしていて一見柔らかそうな雰囲気に見える。

が、見た目の中身のギャップは激しく、美羽の気性はかなり荒いほうだった。
「ほんと。タバコくらい吸ってるんでしょう?」

蒼が前に出てきて私に顔を近づけてくる。
その鼻息がタバコ臭くて思わず顔をそむけた。
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