悪事通報アプリ
「わ、私じゃないじゃん! こいつに行かせるんでしょう!?」
蒼は勢いよく立ち上がり、私を指差してくる。
それでも晴希の考えは変わらなかった。

「こいつはできねぇつってんだから、仕方ねぇだろ」
「はぁ!? それでなんで私が行かなきゃいけないわけ!?」

蒼からすればわけのわからない展開に違いない。
私に万引を練習させて、本当にほしいものを盗ってこさせる。

それが美羽の思惑なんだから。
「誰が行ったって同じだろ。美羽の機嫌を取るだめだけなんだからよ」

「それならあんたが行きなさいよ!」
蒼の声がだんだん悲鳴に近くなってくる。
私はこらえきれずにうつむいて笑ってしまった。

人には万引もできないのかと笑っていたくせに、自分が万引を強要されるとこんなにも焦っている。

その様子が滑稽で仕方ない。
「いいから、早く行け!」
晴希がまた拳を作って蒼へ向けて振り上げた。

蒼は咄嗟に両腕で顔をガードし、そして真っ青な顔で晴希を見つめた。
「……わかった。行ってくるからもう殴らないで」

他人を攻撃ばかりしてきた人間は、他人から攻撃されることに慣れていない。
だから、こんなにも弱い。
< 84 / 170 >

この作品をシェア

pagetop