スタァ・プレイ~舞台少女のナイショの願い~
第1話 舞台の王子様と転校生
○プロローグ・舞台の王子様
私立凰華高等学校。本日、文化祭。
舞台上で王子役を演じる星蘭。星蘭は藍色のハンサムショートを男役リーゼントにセットして凛々しい男役用舞台メイクをしている。
文化祭で演劇部はシンデレラをモチーフにした創作台本を上演している。
相手は華奢で可憐なふんわりとした巻髪が似合う亜麻色の髪をした背の低い女子(先輩1)。煌びやかな水色のドレスを身に纏いティアラを着けている。観客にはふたりがキラキラと輝いて見える。
舞踏会のシーン。星蘭演じる王子と先輩1演じるシンデレラがワルツを踊る。
星蘭は舞台ではスポットを浴びて観客から憧れの眼差しを一身に受ける。
星蘭(M)【私は『みんなの王子様』】
【ヒロインになりたい想いを隠して……】【それでも私は演じ続ける。私が私であるために……】
シーンは変わり、シンデレラが0時の鐘の音を合図に急いで帰ろうと大階段を駆け下りる場面。
そこで星蘭演じる王子が手首を掴み、振り返らせてシンデレラを熱く抱擁する。
先輩1「きゃっ、殿下!」
星蘭「君の名は」
先輩1「シンデレラでございます」
星蘭「……君は綺麗だ。そのような名前で呼ぶのは誰なんだい? 君の本当の名前は」
先輩1「殿下。申し訳ございません。私、もう帰らなくてはなりません……」
シンデレラ役の女子生徒は大階段を駆け下りて舞台外に捌ける。星蘭は愛おしさと切なさを込めた表情でその方向を見て胸元をぎゅっと握る。目線の先にガラスの靴があり、驚いた顔をしたあと、少しだけ怪しく笑う。
星蘭「……叶うならまた君と踊りたい。だが、また会うことになるだろう。シンデレラ。そうしたら僕は君を妃にしよう」
シンデレラが残したガラスの靴を拾いながら階段を降りて0番に立ち、正面を向く。曲が流れて暗転する。
その後、しばらく時間経過を表すコマが入り、キャストが舞台上に全員並んで手を繋ぎ、上に掲げる図。観客は大きな拍手を送る。
モブ女子1「ほんと星蘭さまってカッコイイよねぇ。相手が女子だろうと好きになっちゃいそう」
モブ女子2「だよねぇ。本当に素敵~。身長178㎝ってのもカッコイイし。ウチもああいう王子様に恋したい~」
モブ女子1「ぶっちゃけ、星蘭さまのファンやってるだけで満足しちゃうよね?」
モブ女子3「ファンクラブはいつでも君たちの入会を待っているからね。気軽に声かけてちょうだい」
モブ女子1「あとで詳しく聞かせてほしいかも」
○終演後・演劇部部室
部長「みんなおつかれさま!」
部長は3年生。この文化祭が引退公演となるため、3年生の中には涙を流す者もいる。
星蘭はキャストの先輩に声をかけられている。
先輩1「星蘭。ありがとうね。素敵な王子様だったよ」
星蘭「ありがとうございます。先輩。私、先輩からたくさん学ばせていただきました。これからはその学びを後輩たちに引き継いでいきたいです」
先輩1「ふふ、頼もしいね。うーっ、寂しくなっちゃうなぁ」
部室では先輩と後輩がそれぞれ語り合っている。
部長「さあ、私たちの出番は終わったけれど文化祭はまだあるからね! とりあえず、みんなクラス展示に戻るよ! 切り替え切り替え!」
部長が声をかけ、部員は返事をする。場面は文化祭に移る。
〇文化祭・学校内廊下
美晴「おつかれ星蘭~! かっこよかった! 演劇に興味ない子でも楽しんで観れたって言ってたよ」
星蘭「ほんと? 嬉しいなぁ。いつも観てくれてありがとう」
美晴「いえいえ。こちらこそあんな素敵な舞台みせてくれてありがとうだよ。あ、これ、買っておいたからあっちで食べよ」
星蘭「うん。そうだね。もうお腹すいた~助かるよ」
美晴「やっぱあんなに歌って踊ってお芝居してたらお腹すくよね。食べよ食べよ!」
美晴は星蘭の友達。バレーボール部の部員。身長は168㎝。焦げ茶色の髪にポニーテール。星蘭とクラスが一緒。
星蘭と美晴は食事可能な空き教室に移動し、模擬店で購入した焼きそばと唐揚げを食べながら話す描写。
美晴「やっぱ星蘭、これからも演劇やりなよ。高校でやめちゃうのもったいないって」
星蘭「うーん……考えとく。ありがとうね」
美晴「お世辞じゃないからね! そうだ。さっき部活の子達に会ったんだけど、来週うちの学年に転校生が来るって噂聞いたんだよね」
星蘭「へぇ。この時期に?」
美晴「ね! どんな人だろう〜」
星蘭と美晴がふたりで話している時に、遥斗(学生服を着た背の高い爽やかな短髪)が教室のドアのところに立っていた。
美晴が振り返ると男子は教室内に入っていた。
美晴「わあっ! びっくりした!」
星蘭「こら、失礼でしょ」
美晴「へへ……」
遥斗「星蘭? 剣崎星蘭だよね?」
遥斗は目を輝かせて星蘭に近づく。星蘭は記憶にない男子が近寄ってきて頭の中に『?』を浮かべながら混乱する。美晴はニヤニヤしながらふたりを見る。
美晴「え、なになに? 星蘭の知り合い?」
遥斗「そうなんだけど……小学生の時、途中で転校しちゃったから覚えてないかな? 俺、園田遥斗」
星蘭「……ああっ! えっ、遥斗? いや、あの、そのぉ……」
星蘭は気まずそうにする。
それでも、星蘭は自分よりも身長が高い遥斗の姿を見て、気になってしまいチラチラと遥斗を見る。
美晴「なんでそんな気まずそうなのよ」
星蘭「私の記憶の中の遥斗はもっとこう……小さくてふわふわってしてる可愛い系男子だった記憶で……」
遥斗「中学生になったら急に身長伸びた。それに小さくて弱っちいの、コンプレックスだったから今の方が気に入っているよ」
星蘭「そっかぁ。なんだか急に大人になった気もする」
星蘭(こんな身長高い男子、初めて……しかもあの遥斗だなんて。嘘みたい)
星蘭は自分よりも背の高い男性が好みのタイプであるが、誰にも打ち明けていない。
久しぶりに会った可愛かった幼馴染が、筋肉質で体格のいい高身長に成長して目の前に現れたことに、まるで舞台作品のヒロインのような気持ちになる星蘭。
頭の中では、先程演じたシンデレラと王子の描写が蘇る。自分がシンデレラで、遥斗が王子。身長差は自分と先輩1のように大きくはないが、しっかりと身長差があることにうっとりとしてしまう。
美晴「なんでウチの文化祭に来たの?」
遥斗「実はここに転校することになって。それでちょうど文化祭をやるから来てみるといいよって先生が言ってくれたからさ。来てみたってわけ」
美晴「なるほどねぇ。それでこんな偶然にも幼馴染に再会したとねぇ……ね? 星蘭」
星蘭「えっ、あっ、そうね。なんか変な感じ。久しぶりだもんね、遥斗」
遥斗「……おう」
星蘭がふわりと笑うと、遥斗は星蘭の微笑みにどきっとして少しだけ頬を赤らめて目を逸らす。
風景はただの教室だが、ふたりの雰囲気は明るく花が咲くようなあたたかな様子。
その様子を見た美晴はニヤニヤとしながらふたりの気まずそうな雰囲気を楽しんでいる。
美晴「ふーん。そういうことね? あ、そういえばさっきの星蘭たちの舞台観た? シンデレラ」
遥斗「ああ。観たよ。かっこよかった。みんな星蘭にメロメロだった。星蘭ってあんな風にもなれるんだな。驚いたよ」
美晴「ふだんはこんな可愛い乙女なのにねぇ」
星蘭「そんなことないよ……! あっ、ごめん」
星蘭は食い気味に反論する。星蘭は眉間に皺を寄せて複雑そうな顔をしている。美晴は星蘭の方を少しだけ驚いた風に見る。遥斗も何かを察するように星蘭の表情を見る。
束の間の静寂。
美晴「じゃ、うちらはそろそろほかのとこ見てまわるか〜」
星蘭「うん」
美晴「園田くんは? これからどうする?」
遥斗「俺はそろそろ帰るよ」
美晴「そっか! じゃあ、また学校で!」
遥斗「おう」
星蘭「……じゃあね。遥斗」
遥斗「おう……またな」
星蘭と美晴の後ろ姿を見て手を振る遥斗。
星蘭も胸に手を当てて、少しだけ遥斗のことが気になっている様子。美晴はこの時すでにふたりが男女で意識していることが何となくわかっている。
美晴「星蘭、もしかして園田くんのこと気になっちゃった感じ?」
星蘭「んなっ!? そんなことない、よ」
焦りながら頬を赤らめ、あからさまに否定する星蘭。可愛らしい照れ隠しの表情を見て、美晴は微笑む。
美晴「星蘭。園田くんには正直になってもいいと思うよ」
星蘭「んん……でも……」
美晴「私はそう思うってだけね。だって素の星蘭、こんなに可愛いのに。いつもイケメン王子様って感じでがんばっちゃってさ。この際言うけれど」
星蘭「うん……ありがとう」
美晴「園田くんも、たぶんだけど『本当の星蘭』を見たいはずだから」
星蘭「本当の私……」
星蘭(もやもやとした気持ちのまま、文化祭は終わった)
暗転。場面は移り、教室へ。
〇転校生の紹介・星蘭のクラス教室
先生「はい。それじゃあ転校生の紹介をするぞ。園田遥斗くんだ。2年生からこっちに引っ越してきて、うちに転校してきた。わからないことや困ったこともあるだろうから、みんな助けてやれよ~」
クラスはざわつく。遥斗の身長が高いのが目立ち、前方に座っている女子は高身長と凛々しい顔立ちの遥斗をイケメンだとかカッコイイだとか小声で話している。
遥斗「園田遥斗です。よろしくお願いします」
先生「じゃあ、あそこの空いている席が園田の席な」
遥斗は窓際の列の最後列である星蘭の隣の空いている席に着席する。
美晴は星蘭の前の席。
遥斗「よろしく。星蘭」
星蘭「う、うん。よろしく」
遥斗がにこっと笑うと、星蘭は作り笑いのようにぎこちなく笑ってみせる。
周囲に座る女子は『王子様と騎士って感じ~』『素敵~』と言い合っている。
星蘭(M)【同じクラスに転校生としてやってきた遥斗。《かつての私》を知っている遥斗にはいろいろ話したいことがある。】
先生はホームルームを再開し、秋に行われる芸術鑑賞会の話をしている。
その話を真面目に聞いている遥斗の横顔を険しい顔でさりげなく見つめる星蘭。
私立凰華高等学校。本日、文化祭。
舞台上で王子役を演じる星蘭。星蘭は藍色のハンサムショートを男役リーゼントにセットして凛々しい男役用舞台メイクをしている。
文化祭で演劇部はシンデレラをモチーフにした創作台本を上演している。
相手は華奢で可憐なふんわりとした巻髪が似合う亜麻色の髪をした背の低い女子(先輩1)。煌びやかな水色のドレスを身に纏いティアラを着けている。観客にはふたりがキラキラと輝いて見える。
舞踏会のシーン。星蘭演じる王子と先輩1演じるシンデレラがワルツを踊る。
星蘭は舞台ではスポットを浴びて観客から憧れの眼差しを一身に受ける。
星蘭(M)【私は『みんなの王子様』】
【ヒロインになりたい想いを隠して……】【それでも私は演じ続ける。私が私であるために……】
シーンは変わり、シンデレラが0時の鐘の音を合図に急いで帰ろうと大階段を駆け下りる場面。
そこで星蘭演じる王子が手首を掴み、振り返らせてシンデレラを熱く抱擁する。
先輩1「きゃっ、殿下!」
星蘭「君の名は」
先輩1「シンデレラでございます」
星蘭「……君は綺麗だ。そのような名前で呼ぶのは誰なんだい? 君の本当の名前は」
先輩1「殿下。申し訳ございません。私、もう帰らなくてはなりません……」
シンデレラ役の女子生徒は大階段を駆け下りて舞台外に捌ける。星蘭は愛おしさと切なさを込めた表情でその方向を見て胸元をぎゅっと握る。目線の先にガラスの靴があり、驚いた顔をしたあと、少しだけ怪しく笑う。
星蘭「……叶うならまた君と踊りたい。だが、また会うことになるだろう。シンデレラ。そうしたら僕は君を妃にしよう」
シンデレラが残したガラスの靴を拾いながら階段を降りて0番に立ち、正面を向く。曲が流れて暗転する。
その後、しばらく時間経過を表すコマが入り、キャストが舞台上に全員並んで手を繋ぎ、上に掲げる図。観客は大きな拍手を送る。
モブ女子1「ほんと星蘭さまってカッコイイよねぇ。相手が女子だろうと好きになっちゃいそう」
モブ女子2「だよねぇ。本当に素敵~。身長178㎝ってのもカッコイイし。ウチもああいう王子様に恋したい~」
モブ女子1「ぶっちゃけ、星蘭さまのファンやってるだけで満足しちゃうよね?」
モブ女子3「ファンクラブはいつでも君たちの入会を待っているからね。気軽に声かけてちょうだい」
モブ女子1「あとで詳しく聞かせてほしいかも」
○終演後・演劇部部室
部長「みんなおつかれさま!」
部長は3年生。この文化祭が引退公演となるため、3年生の中には涙を流す者もいる。
星蘭はキャストの先輩に声をかけられている。
先輩1「星蘭。ありがとうね。素敵な王子様だったよ」
星蘭「ありがとうございます。先輩。私、先輩からたくさん学ばせていただきました。これからはその学びを後輩たちに引き継いでいきたいです」
先輩1「ふふ、頼もしいね。うーっ、寂しくなっちゃうなぁ」
部室では先輩と後輩がそれぞれ語り合っている。
部長「さあ、私たちの出番は終わったけれど文化祭はまだあるからね! とりあえず、みんなクラス展示に戻るよ! 切り替え切り替え!」
部長が声をかけ、部員は返事をする。場面は文化祭に移る。
〇文化祭・学校内廊下
美晴「おつかれ星蘭~! かっこよかった! 演劇に興味ない子でも楽しんで観れたって言ってたよ」
星蘭「ほんと? 嬉しいなぁ。いつも観てくれてありがとう」
美晴「いえいえ。こちらこそあんな素敵な舞台みせてくれてありがとうだよ。あ、これ、買っておいたからあっちで食べよ」
星蘭「うん。そうだね。もうお腹すいた~助かるよ」
美晴「やっぱあんなに歌って踊ってお芝居してたらお腹すくよね。食べよ食べよ!」
美晴は星蘭の友達。バレーボール部の部員。身長は168㎝。焦げ茶色の髪にポニーテール。星蘭とクラスが一緒。
星蘭と美晴は食事可能な空き教室に移動し、模擬店で購入した焼きそばと唐揚げを食べながら話す描写。
美晴「やっぱ星蘭、これからも演劇やりなよ。高校でやめちゃうのもったいないって」
星蘭「うーん……考えとく。ありがとうね」
美晴「お世辞じゃないからね! そうだ。さっき部活の子達に会ったんだけど、来週うちの学年に転校生が来るって噂聞いたんだよね」
星蘭「へぇ。この時期に?」
美晴「ね! どんな人だろう〜」
星蘭と美晴がふたりで話している時に、遥斗(学生服を着た背の高い爽やかな短髪)が教室のドアのところに立っていた。
美晴が振り返ると男子は教室内に入っていた。
美晴「わあっ! びっくりした!」
星蘭「こら、失礼でしょ」
美晴「へへ……」
遥斗「星蘭? 剣崎星蘭だよね?」
遥斗は目を輝かせて星蘭に近づく。星蘭は記憶にない男子が近寄ってきて頭の中に『?』を浮かべながら混乱する。美晴はニヤニヤしながらふたりを見る。
美晴「え、なになに? 星蘭の知り合い?」
遥斗「そうなんだけど……小学生の時、途中で転校しちゃったから覚えてないかな? 俺、園田遥斗」
星蘭「……ああっ! えっ、遥斗? いや、あの、そのぉ……」
星蘭は気まずそうにする。
それでも、星蘭は自分よりも身長が高い遥斗の姿を見て、気になってしまいチラチラと遥斗を見る。
美晴「なんでそんな気まずそうなのよ」
星蘭「私の記憶の中の遥斗はもっとこう……小さくてふわふわってしてる可愛い系男子だった記憶で……」
遥斗「中学生になったら急に身長伸びた。それに小さくて弱っちいの、コンプレックスだったから今の方が気に入っているよ」
星蘭「そっかぁ。なんだか急に大人になった気もする」
星蘭(こんな身長高い男子、初めて……しかもあの遥斗だなんて。嘘みたい)
星蘭は自分よりも背の高い男性が好みのタイプであるが、誰にも打ち明けていない。
久しぶりに会った可愛かった幼馴染が、筋肉質で体格のいい高身長に成長して目の前に現れたことに、まるで舞台作品のヒロインのような気持ちになる星蘭。
頭の中では、先程演じたシンデレラと王子の描写が蘇る。自分がシンデレラで、遥斗が王子。身長差は自分と先輩1のように大きくはないが、しっかりと身長差があることにうっとりとしてしまう。
美晴「なんでウチの文化祭に来たの?」
遥斗「実はここに転校することになって。それでちょうど文化祭をやるから来てみるといいよって先生が言ってくれたからさ。来てみたってわけ」
美晴「なるほどねぇ。それでこんな偶然にも幼馴染に再会したとねぇ……ね? 星蘭」
星蘭「えっ、あっ、そうね。なんか変な感じ。久しぶりだもんね、遥斗」
遥斗「……おう」
星蘭がふわりと笑うと、遥斗は星蘭の微笑みにどきっとして少しだけ頬を赤らめて目を逸らす。
風景はただの教室だが、ふたりの雰囲気は明るく花が咲くようなあたたかな様子。
その様子を見た美晴はニヤニヤとしながらふたりの気まずそうな雰囲気を楽しんでいる。
美晴「ふーん。そういうことね? あ、そういえばさっきの星蘭たちの舞台観た? シンデレラ」
遥斗「ああ。観たよ。かっこよかった。みんな星蘭にメロメロだった。星蘭ってあんな風にもなれるんだな。驚いたよ」
美晴「ふだんはこんな可愛い乙女なのにねぇ」
星蘭「そんなことないよ……! あっ、ごめん」
星蘭は食い気味に反論する。星蘭は眉間に皺を寄せて複雑そうな顔をしている。美晴は星蘭の方を少しだけ驚いた風に見る。遥斗も何かを察するように星蘭の表情を見る。
束の間の静寂。
美晴「じゃ、うちらはそろそろほかのとこ見てまわるか〜」
星蘭「うん」
美晴「園田くんは? これからどうする?」
遥斗「俺はそろそろ帰るよ」
美晴「そっか! じゃあ、また学校で!」
遥斗「おう」
星蘭「……じゃあね。遥斗」
遥斗「おう……またな」
星蘭と美晴の後ろ姿を見て手を振る遥斗。
星蘭も胸に手を当てて、少しだけ遥斗のことが気になっている様子。美晴はこの時すでにふたりが男女で意識していることが何となくわかっている。
美晴「星蘭、もしかして園田くんのこと気になっちゃった感じ?」
星蘭「んなっ!? そんなことない、よ」
焦りながら頬を赤らめ、あからさまに否定する星蘭。可愛らしい照れ隠しの表情を見て、美晴は微笑む。
美晴「星蘭。園田くんには正直になってもいいと思うよ」
星蘭「んん……でも……」
美晴「私はそう思うってだけね。だって素の星蘭、こんなに可愛いのに。いつもイケメン王子様って感じでがんばっちゃってさ。この際言うけれど」
星蘭「うん……ありがとう」
美晴「園田くんも、たぶんだけど『本当の星蘭』を見たいはずだから」
星蘭「本当の私……」
星蘭(もやもやとした気持ちのまま、文化祭は終わった)
暗転。場面は移り、教室へ。
〇転校生の紹介・星蘭のクラス教室
先生「はい。それじゃあ転校生の紹介をするぞ。園田遥斗くんだ。2年生からこっちに引っ越してきて、うちに転校してきた。わからないことや困ったこともあるだろうから、みんな助けてやれよ~」
クラスはざわつく。遥斗の身長が高いのが目立ち、前方に座っている女子は高身長と凛々しい顔立ちの遥斗をイケメンだとかカッコイイだとか小声で話している。
遥斗「園田遥斗です。よろしくお願いします」
先生「じゃあ、あそこの空いている席が園田の席な」
遥斗は窓際の列の最後列である星蘭の隣の空いている席に着席する。
美晴は星蘭の前の席。
遥斗「よろしく。星蘭」
星蘭「う、うん。よろしく」
遥斗がにこっと笑うと、星蘭は作り笑いのようにぎこちなく笑ってみせる。
周囲に座る女子は『王子様と騎士って感じ~』『素敵~』と言い合っている。
星蘭(M)【同じクラスに転校生としてやってきた遥斗。《かつての私》を知っている遥斗にはいろいろ話したいことがある。】
先生はホームルームを再開し、秋に行われる芸術鑑賞会の話をしている。
その話を真面目に聞いている遥斗の横顔を険しい顔でさりげなく見つめる星蘭。