スタァ・プレイ~舞台少女のナイショの願い~

第2話 高身長コンビ誕生

〇昼休み・食堂

 食堂は昼休みでありほぼ満席の状態。
 美晴と星蘭が学食で購入したご飯を食べてようと席に着く。周囲にいた1年生の女子たちが星蘭の姿を見ると、『イケメン~』『かっこいい』などと騒いでいた。星蘭は彼女たちに笑顔を見せると、女子たちはさらに黄色い声をあげる。

美晴「相変わらずモテモテだこと」
星蘭「それが私の役目なんだろうよ」

 星蘭と美晴はご飯を食べながら雑談をしている。周囲も賑わっている。
 
美晴「文化祭も終わって次のイベントは修学旅行かぁ。あ~早く修学旅行行きたいなぁ」
星蘭「その前に芸術鑑賞会でしょ?」
美晴「あ~そうだね。今年は聖華歌劇団だって先生言ってたね」
星蘭「そうだよ! 私、今からすっごくワクワクしてる」
美晴「そりゃそうかぁ。星蘭、聖華好きだもんね」
星蘭「自分でもチケットが取れたら行くけど、やっぱり学校行事で行くのはまた違う楽しさがあるんだよ」
美晴「星蘭の解説も聞けるし楽しみにしておくわ」
星蘭「ふふ、ありがと」

星蘭(M)【『聖華歌劇団』それは、未婚女性のみで構成された歌劇団のこと。彼女たちのお芝居、ダンス、歌は日々磨き上げられてきた血の滲むような努力の結晶。】
 聖華歌劇団の描写。
 トップ男役とトップ娘役を中心に数々のキャラクターを団員が演じている描写が数コマ描かれている。
 ・この描写での演目はロミオとジュリエット。ロミオがジュリエットの部屋のバルコニーの下に偶然辿り着き、彼女の愛の告白を耳にする。
 ・ジュリエットが仮死状態になる薬を飲み死者を装いロミオと再会。ロミオは彼女の後を追うように毒を飲み息絶える。そこで目覚めたジュリエットが事の成り行きを悟り、ロミオの短剣を用いて自害する。
 という有名なシーン。
星蘭(M)【聖華歌劇団は聖華音楽学校の卒業生のみ入団できる特殊な劇団だ。聖華に入るために毎年多くの女子中高生が音楽学校を受験する。】
星蘭(M)【何十倍もの倍率を突破した選ばれし者だけが入学し、卒業後も修行の日々──】
 受験生がスクールでレッスンをしている描写。受験用レオタードとタイツを着用している女子中高生が同じ動きをしている。
星蘭(M)【そんなスターたちが創る舞台は本当に夢のような世界。】
 大階段を降りた後、シャンシャンを手に持ち、観客に手を振る団員の描写。
 トップ男役、トップ娘役、2番手男役が大羽根を背負っている。 

 星蘭が美晴に聖華歌劇団の話をしている時に遥斗が近くを通りがかる。美晴が遥斗に気づき、手を振り声をかける。

美晴「おっ、園田くんじゃん!」
遥斗「あっ。こんなところに。隣いい?」
美晴「どうぞどうぞ~」

 遥斗はふたりが座る席の隣に座り、テーブルをくっつけた。
 
星蘭「なんでここにいるのよ」
遥斗「学食美味しいって聞いたから来てみた」

 遥斗は大盛りからあげ丼をお盆にのせていた。

星蘭「誰かと来たら良かったのに。声かけてくれなかったの?」
美晴「わかってないなぁ」
星蘭「え?」
遥斗「……おいっ!」

 美晴が星蘭に小声でそう言うと、遥斗は美晴に食い気味に制止しようとする。
 遥斗はご飯を食べ始める。

遥斗「まぁ、今日はひとりで行ってみたくて。それにさっき少し校内案内してもらってたし。内村とか」

 内村はバレーボール部の副部長。真面目な性格で面倒見がいい。遥斗の席から2つ前の席に座っている。眼鏡をかけた体格のいい男子。短髪で爽やかな雰囲気。物腰柔らかで成績優秀。身長は174㎝。
 
美晴「内村なら納得だわ。ちゃんと仲良くしなよ? いい人だから」
遥斗「言われなくてもそうするよ。親切な人だなって思ったし」
星蘭「内村くんといえばバレー部だよね。遥斗、部活はどうするの?」
美晴「そうだ! 園田くん転校前は何してたの?」
遥斗「ああ。転校前はバレー部入ってた。でもなんとなくでやってただけなんだよね」
美晴「へぇそうなんだ。バスケにおいでよ~って思ったけどバレーしてたならバレー部かぁ」
遥斗「いや。バレーはしない」
星蘭「え? そうなの?」

 遥斗の返答に美晴と星蘭は驚く。遥斗はもぐもぐとからあげを頬張っている。

遥斗「演劇部入ろうと思う」
星蘭「はっ!? なんで」

 星蘭は驚いた表情をして遥斗の方を見る。遥斗は構わずご飯を食べ続けている。
 
遥斗「演劇、面白そうだと思ったから」
美晴「へぇ。やっぱ文化祭でのステージ発表見て心動かされた感じ?」

 美晴は頬杖をついて興味津々に遥斗を見る。

遥斗「まあ。うん。それもある」
星蘭「……じゃあほかに何よ」
遥斗「うーん……俺、星蘭と舞台に立ちたいって思った」
星蘭「え?」
遥斗「男役を演じている星蘭はかっこいいし、全部上手いなって思った。身のこなしが男役であることを忘れていない」

 遥斗が思い出しながら話しているため、セリフと同時に文化祭の時の星蘭の描写が入る。

星蘭「それはどうも……」

 星蘭は突然褒められて照れてしまう。

遥斗「でも、俺の知っている星蘭はこうじゃないかもって思った」
美晴「ふぅん」

 星蘭はすこし苦しそうな顔をしてうつむく。

遥斗「楽しんで演劇をしているのは伝わる。けど、もっといろんな役をしてみたいのかなって」
美晴「それがどうして園田くんが演劇部入る理由になるの?」
遥斗「星蘭をヒロインにしてみせる。それが俺が演劇部に入る理由。星蘭を超す男性役になればいいんだろ?」

 遥斗は星蘭をじっと見つめていた。その瞳には、星蘭がヒロインで遥斗がヒーローの役をしている未来が映っている。
 星蘭はその遥斗の強い眼差しに耐えきれず、目を逸らしてしまう。胸がドキドキして遥斗のことが気になって仕方なくなる。
 自分が本当はヒロインをしてみたいという気持ちを持っていることを誰にも打ち明けたことがないのに、遥斗には見透かされている気がしている。
 自分を変えようという熱量に対する男らしさへのトキメキと、自分の本心がバレてしまったらどうしようという焦りがある。
 
星蘭「私がヒロインって……。余計なお世話。私は男役をしたくてしているんだから。なら遥斗はライバルね」
遥斗「望むところだ」
星蘭「じゃあ今日の放課後、演劇部の部室に連れて行くから。絶対来てよね」
遥斗「当たり前だろ」

 星蘭と遥斗がバチバチとしている雰囲気を美晴は楽しそうに眺めながらご飯を食べている。


〇放課後・演劇部部室

部長「ということで、星蘭が見学希望者を連れてきてくれました! 数少ない男子部員の候補なのでありがたいよぉ。来てくれてありがとうね園田君」
遥斗「あ。いえ。こちらこそ」
部長「簡単に自己紹介してくれるかな?」
遥斗「はい」
 
 演劇部の部員たちは遥斗の背の高さにザワザワする。
 部長は眼鏡をしてサイドテールで髪をまとめている。身長は156㎝。ジャージを着ている。

遥斗「園田遥斗です。演劇はまったくわからないですけどがんばります。よろしくお願いします」
部長「園田君はキャスト志望らしいから、まずはキャスト組に行くといいよ。といっても最初の発声とかはみんなでやるんだけどね」
遥斗「はい」
部長「それじゃあ練習始めるよ~。園田君、ちょっと部活の概要について説明するからこっち来て」
遥斗「ありがとうございます」

 部長が遥斗を連れて隣の教室に移動する。そこで説明をする。
 
部長「演劇部の活動時間は平日の放課後16時から18時。大会とかイベントが近くなると19時までになることもあるよ。場合によっては土曜日も練習かな。それ以外の時間で自主練する人もいるかな」
遥斗「大会っていつ頃なんですか?」
部長「10月が地区大会、11月が県大会かなぁ。まあうちはここ数年、わけあって大会に出ない方針なんだけどさ」
遥斗「そうなんですね」

 部長は苦笑いしながら遥斗に話す。

部長「あと、うちら3年生は文化祭で一旦引退なんだけど、来たい人はいつでも来てもいいってことになっているから、ちょくちょく様子を見に来たり一緒に練習したりもすると思う」
遥斗「そうだったんですね」
部長「次の部長は脚本担当している広瀬が担当することになっているわ」

 部長が遥斗にいろいろ説明するシーン。

部長「それじゃあ一応概要は説明し終えたし、合流しましょうか。せっかく来たならキャストだけじゃなくて全部のパート見ていってね」
遥斗「はい。わかりました。ありがとうございます」

 遥斗が立ち上がると部長は一歩退いて全体を見る。

部長「にしてもいい身体だよ。これならキャスト組だけじゃなく脚本も助かるってもんよ」
遥斗「なんでですか?」
部長「創作の幅が広がるってやつよ」
遥斗「そういうもんですか」
部長「そうよ~! さ、さっそく行こうか」 

 部長のあとを遥斗はついていく。
 シーン変わってキャスト組の練習場所に行く。
 
〇演劇部部室・パート練習
志摩「それじゃあこの台本やってみようか。恥ずかしがらないでいいからね~。ここからここまでやろう。じゃあ星蘭、相手役で」
星蘭「えっ、私?」
志摩「だって園田君と幼馴染なんでしょ? ちょうどいいじゃん」
星蘭「まあそうだけど……」
遥斗「よろしく」
星蘭「ああ、うん、わかったよ」

 台本を受け取り、星蘭と遥斗が向き合う。
 遥斗は台本を読んで丸めて手に持った。

星蘭「なんであんた台本……」
遥斗「覚えた。全部」
星蘭「えっ」

 周りはざわつく。様子を見に来ていた部長と脚本担当の2年生・広瀬がチラ見している。

遥斗「さあ、やろう」
星蘭「うん……」
星蘭(なんだか調子が狂うな……)

 台本は文化祭で上演したシンデレラ。配役は王子が遥斗、シンデレラが星蘭である。
 シンデレラ役を演じたのが先輩であり今はいない。そのため、この場にいる部員の中でいちばんシンデレラのセリフを覚えているのが星蘭であった。
 演じる場面は、1話冒頭のシーンと同じ。

星蘭「……殿下!」

 星蘭は普段男役を演じているため声を低くしていたが、今は娘役の声で普段の声に近い高さ。
 
遥斗「君の名は」
星蘭「……シンデレラでございます。殿下っ……」

 星蘭の思い描くシンデレラを演じる。目線を合わせようとせずに早く帰ろうとしている焦りが感じられる仕草。
 遥斗は棒読みではなく、ハキハキとした発声ができている。
 
遥斗「君は綺麗だ。そのような名前で呼ぶのは誰なんだい? 君の本当の名前は」

 シンデレラに畳みかけるように問い詰める。もう会えなくなってしまうのではないかという気持ちから、せめて名前だけでも。という意思。表情はやや寂し気に。
 
星蘭「殿下。申し訳ございません。私、もう帰らなくては」
遥斗「待て」

 星蘭は悲し気な顔をして下手側にはけようとすると、遥斗は制止する。
 思わず星蘭は遥斗の方を見てしまう。

星蘭「殿下っ」

 遥斗が星蘭の手首を引っ張って力強く胸に抱く。それを拒もうとする星蘭。

遥斗「君を離したくない」
星蘭「私は……」

 この場にいた全員が、時計の鐘が鳴り終わる瞬間が来てしまうとソワソワしながら、ふたりの演技に目が釘付けになる。
 遥斗の大きく厚い手が触れると、星蘭はどきっとしてしまう。
 時計の鐘が鳴り終わるであろう間をとり、星蘭は急いで帰る。
 
星蘭「さようなら」

 星蘭は下手側にはけていく。その跡を追おうとする遥斗。落ちていたガラスの靴を拾う。

遥斗「叶うならまた君と踊りたい。だが、また会うことになるだろうシンデレラ。そうしたら僕は……僕は君を妃にする」

 遥斗がガラスの靴を握りしめて正面に向かってセリフを言う。 
 志摩が『カット!』と言いながら手を叩く。
 部員は自然と拍手を送っていた。

部長「へぇ。すごいね園田君」

 部長と広瀬は部屋に入っていた。

広瀬「本当に未経験者なんですかね。あんな堂々とできるものなのかなぁ」
部長「いやぁ……何かあるね」
志摩「部長に広瀬! ふたりも見てたんですね」

 星蘭は遥斗の背中を叩く。

星蘭「あんな上手いなんて聞いてない。もう~……びっくりしたよ。おつかれさま」
遥斗「ありがとう」

 部員たちは遥斗を褒め称える。星蘭もその様子を見てにこにことしている。

広瀬「園田君の王子は、星蘭とはまた違う雰囲気だったね。何かモデルとかあるの?」
遥斗「うーん。星蘭はきっと、『理想の王子様』を演じていたんだと思う。けど俺は、王子だってひとりの人間で、男だって思ったらあんな風になっただけ」
広瀬「いやいやすごいよ。あの短時間で自分の解釈も入れるなんて」
星蘭「なるほどね……そういう解釈もあるのか。勉強になった。遥斗」
遥斗「あ、ああ……」
部長「なんか園田君はヤンデレ系っていうのかな? ちょっとダークなヒーローとかやらせてみたいね」
広瀬「それめっちゃいいですね部長! うわぁ書きたい! 書きたい!」
部長「高身長コンビ誕生ってか~! 次の公演、楽しみにしてるよ」
広瀬「はいっ!」
部員「園田先輩! さっきのめちゃくちゃ良かったです! どうやったらあんな引き込まれるような演技できるんですか!」
部員「それ私も聞きたいです!」
部員「星蘭先輩と幼馴染なんですか? おふたりのエピソードとかも聞きたいです!」 
 
 1年生の部員も含めた部員たちが星蘭と遥斗に話しかけて、雑談が始まる。
 
〇廊下
 
 夕焼けに染まる廊下。少しオレンジになり、暗くなっている。
 しばらくして、体験会も終わり、星蘭が遥斗の見送りに行くことになったためふたりきり。

星蘭「みんな遥斗が入部してくれるの楽しみにしてると思うよ」
遥斗「そっか。それは嬉しい。……星蘭は?」
星蘭「私?」
遥斗「うん」

 先に歩いていた星蘭が歩みを止め、後ろを向く。遥斗は星蘭を見下ろすようにじっと見つめる。

星蘭「私、すぐに役とられちゃうのかもなって思った」
遥斗「いや? 俺に男役とられるの」
星蘭「ううん。とられてたまるかって思った。もっと頑張るぞ! って」
遥斗「星蘭、負けず嫌いだもんな。昔から」
星蘭「そうよ!……でも、楽しかった。遥斗とお芝居するの。だから嬉しいよ、入ってくれるの」
遥斗「嬉しい。そう言ってくれるの」

 遥斗はにこりと笑って星蘭にぐいっと近づく。星蘭は驚いて後ずさりしようとすると足がもつれてしまい転びそうになる。
 それを遥斗の筋肉質なたくましい腕で受け止められる。片腕だけで抱えられ、星蘭はびっくりする。

星蘭「わああっ! えっと、あ、ありがと……」
遥斗「どういたしまして」

 星蘭は遥斗に背を向けて早歩きする。遥斗はそれについていく。
 遥斗に見えないが、星蘭の顔は真っ赤になっていて、先程の遥斗の男らしさにドキドキしてしまっているのを必死に鎮めようと深呼吸している。
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