スタァ・プレイ~舞台少女のナイショの願い~
第4話 男役と私
○芸術鑑賞会・聖華大劇場
10月も後半になり、気温が下がって過ごしやすい季節となった。街並みはすっかり秋の色となる。
芸術鑑賞会で聖華歌劇団の公演を観劇するためにバスで訪れた星蘭たち。クラスは5組あるため、1クラス1台で合計5台のバスが連なっている。
星蘭はバス車内で目をキラキラさせている。星蘭は窓側に座り、隣には美晴が座っている。
星蘭「うわ~っ! 久しぶりに来た! いつ来ても素敵……」
美晴「たしかに。なんかオシャレだね。レトロな雰囲気っていうの?」
星蘭「劇場に入る前からワクワクするよね!」
しばらくするとバスが停車し降車を促される。生徒たちは降車し、事前に指示されていた通り敷地内に入ると整列する。教員が点呼をして、確認ができたため1組から順番に劇場内に入っていく。
美晴「今日の演目ってどんなお話だっけ」
星蘭「今回のは超人気公演で初演から何十年も経っているけど何度も再演を上演している作品だよ!」
星蘭はパンフレットを取り出して美晴に説明を始める。
内村やほかの男子と話していた遥斗が後ろからその様子に気づくと、星蘭に近寄った。
星蘭「それでね、ネタバレにならない程度にオススメのポイントを伝えると~……」
遥斗「元気だな」
星蘭「わあっ、びっくりしたぁ!」
遥斗「めちゃくちゃ好きなんだな、聖華」
星蘭「そりゃあそうだよ。私が男役に憧れたきっかけなんだから」
星蘭は落ち着いた声でパンフレットを眺めながらそう言う。横顔が綺麗で思わず見惚れてしまう遥斗。それを美晴と内村がにんまりとして見ている。
遥斗「そっか」
星蘭「あ、ほら行くよ!」
自分たちのクラスの列が動き出したのでそれについていく一行。
ロビーは重厚感のあるワインレッドを基調とした絨毯が迎える。照明にはシャンデリアが用いられている。初めて訪れる生徒が多く、思わずその雰囲気に辺りをキョロキョロしてしまう生徒もいる。その後、団体入場をして星蘭たちは1階の後方席にまとまって着席している。
○上演中・大劇場内
楽団の音出しが静かになり会場の照明が落ち、トップスターによる開演アナウンスが流れる。
トップスター「大変長らくお待たせいたしました──」
挨拶の後、観客は拍手を送る。楽団による演奏が始まり、いよいよ幕開けとなった。
上演シーン4-5コマ程度。観劇中には星蘭の心の声。
第1幕はお芝居、第2幕はショーという構成。1幕と2幕の間には休憩がある。
・お芝居シーン
・男役と娘役のキスシーン
・指先、爪先だけでなく、目線や眉など身体すべてを使って演技をしている様子
・男役群舞や娘役群舞
・トップコンビのデュエットダンス
星蘭(M)【こんなにも美しい世界がこの世にはある。】
【女性だからこそ表現できる男らしさと上品さを共存させる男役と、男役の魅力を最大限引き出し同性から見ても美しくて女性らしいと感じさせる娘役】
【どれだけ努力すれば、こんな風に表現できるのだろうか。私には想像できない。】
【観客を夢の世界に誘う妖精のような存在。彼女たちが、私の憧れだ──】
星蘭(M)【私はお芝居が好き。歌もダンスも好き。】
【舞台上の私を好きだと言ってくれるのは素直に嬉しい。でも、まだ足りない。もっと表現できるはずだ。役の良さを】
【この舞台を観て、もっともっともっと頑張りたいと思った。】
【そして……前よりもさらに娘役に挑戦してみたいという思いも、強くなったのであった……】
時間経過を表すコマ。終演。照明がついて、終演アナウンスが流れる。一般客が会場から出るまでしばらく待機。
隣に座っている美晴が星蘭の方を見て小声で呟く。
美晴「やばい。聖華ハマりそう……かっこよすぎた」
星蘭「でしょ? やっぱりハマっちゃうよね」
美晴「星蘭が目指そうと思うのもわかるわ。憧れるもんね」
星蘭「ね。私も改めてもっと頑張ろうと思った。いい経験になった!」
美晴「うんうん! 学校ありがたや~」
教員の促しで、星蘭たちも退場することに。バスに乗り、帰路につく。
バス車内では生徒たちは感想を言い合ったり、スマホを触っていたり、眠っていたり各々が好きなように過ごしていた。
美晴は眠っていたため、星蘭は車窓から見える景色を眺めながら、物思いに更けている。
星蘭(M)【もっと背が低かったらなぁ……】
聖華の舞台を観て、改めて自分が男役が好きであることを自覚する星蘭。それでも、女性らしさを追求した娘役の芝居や歌唱、所作にも心を惹かれた星蘭。男役が好きだけど、ヒロインにも挑戦してみたい星蘭の葛藤が生まれてしまう。
〇外・学校到着
美晴「ふわぁ、よく寝たわ。これから部活だわ~……余韻に浸りたいのに」
星蘭「そっか。バスケ部、休みほぼないもんね」
バスが到着し、学校の駐車場から歩いて部活のある者は校内に入っていく。美晴が嫌がる顔をしながらバスケ部の仲間と合流して校舎に向かうのを見送り、星蘭はそのまま校門を出ようとする。
本日は演劇部の部活が休みの日のため、星蘭はそのまま帰宅するつもりだ。
遥斗「星蘭」
星蘭「遥斗! 一緒に帰る?」
遥斗「うん」
星蘭「あ~最高だった。聖華。勉強にもなった」
遥斗「そうだね。俺もあんな風にやってみようかな」
星蘭「えーっ、遥斗が? でも、やってみるのはいいかもね。聖華風の男前な役とかも今回のでわかっただろうし」
遥斗「うん。身のこなし方とか、魅せ方みたいな部分は参考にしたいって特に思った」
ふたりは感想を言い合いながら最寄り駅へと向かう。電車に乗って同じ駅に降り、 また自宅まで少しだけ歩く。
帰宅途中にある聖華歌劇団を彷彿とさせる大階段のような階段がある広場を通ると、星蘭ははしゃぐ。
星蘭「いつも思ってたけど、ここの階段って聖華みたいだよね」
星蘭は男役が降りるようにして数段降りて遥斗の方を振り返る。 すると、遥斗も同じように降りていく。
遥斗「どう?」
星蘭「イイ感じ。でも、ここをもうちょっとこう、角度つけて……」
星蘭は普段部活でしているような雰囲気で遥斗にアドバイスをしてしまう。遥斗はそれを何も言わず受け入れる。
遥斗の手先に触れて、細かい表現まで伝えようとする。遥斗の方が数段上にいて、星蘭の顔がちょうど遥斗の胸元にある。
星蘭「あっ、ごめん」
星蘭は勝手に触れたことに対して照れることなく普通の様子で謝り、手を離す。
すると、遥斗は唐突に星蘭の肩を抱くように引き寄せて、まるでトップスターがトップ娘役を愛おしそうに抱きしめるようにする。
星蘭は何が起こっているのか理解するのに時間がかかった。
星蘭「……わっ、は、遥斗!?」
遥斗「こんな感じかな。ファンに見られたら怒られそうだけど」
星蘭「そ、そうだけど、って、あ、あああっ、はずかしい、からっ……」
遥斗「力抜いて。こわばってる」
星蘭は恥ずかしさのあまり離れようとするが、遥斗は力強く抱きしめる。
遥斗「誰もいないから大丈夫」
星蘭「そういうことじゃなくてっ!」
遥斗「ね、ほら」
遥斗に手を取られて階段を降りきる星蘭。階段の奥には噴水がある。
遥斗「スポットライトを浴びて、デュエットダンスを踊るんだ。リフトもしたりしてね」
星蘭「私が……遥斗と?」
遥斗「うん。俺と。卒業公演でそういうのができたらいいなって思う」
星蘭「っ……!」
遥斗「いつか見てみたいから。星蘭の娘役。前も言ったけど。あれ、本当だからね?」
愛おしそうに星蘭を見つめて愛の告白のように放つ遥斗に思わず赤面する星蘭。
遥斗「星蘭が迷うくらいなら、星蘭が俺を相手役にして『ヒロインをしたい』って思うくらいになってみせる」
噴水が水を噴き出す。星蘭は階段に座り込む。
星蘭(M)【もう、私は遥斗以外の相手でヒロインやりたいだなんて思えないよ……】
遥斗「あ、ここの噴水って水出るんだ」
星蘭「タイミングが合えばね」
遥斗「へえ、そうなんだ」
星蘭「さーて、帰ったら勉強しなきゃだなー」
遥斗「俺も」
星蘭「合同ステージの台本の読み込みもしなきゃだな」
遥斗「今日はやること多いな~。読み込んでで相談したいことあったらまた連絡するわ」
星蘭「いいよ、私もするかもだし」
ふたりはまたいつもの距離感で帰宅していくのであった。
10月も後半になり、気温が下がって過ごしやすい季節となった。街並みはすっかり秋の色となる。
芸術鑑賞会で聖華歌劇団の公演を観劇するためにバスで訪れた星蘭たち。クラスは5組あるため、1クラス1台で合計5台のバスが連なっている。
星蘭はバス車内で目をキラキラさせている。星蘭は窓側に座り、隣には美晴が座っている。
星蘭「うわ~っ! 久しぶりに来た! いつ来ても素敵……」
美晴「たしかに。なんかオシャレだね。レトロな雰囲気っていうの?」
星蘭「劇場に入る前からワクワクするよね!」
しばらくするとバスが停車し降車を促される。生徒たちは降車し、事前に指示されていた通り敷地内に入ると整列する。教員が点呼をして、確認ができたため1組から順番に劇場内に入っていく。
美晴「今日の演目ってどんなお話だっけ」
星蘭「今回のは超人気公演で初演から何十年も経っているけど何度も再演を上演している作品だよ!」
星蘭はパンフレットを取り出して美晴に説明を始める。
内村やほかの男子と話していた遥斗が後ろからその様子に気づくと、星蘭に近寄った。
星蘭「それでね、ネタバレにならない程度にオススメのポイントを伝えると~……」
遥斗「元気だな」
星蘭「わあっ、びっくりしたぁ!」
遥斗「めちゃくちゃ好きなんだな、聖華」
星蘭「そりゃあそうだよ。私が男役に憧れたきっかけなんだから」
星蘭は落ち着いた声でパンフレットを眺めながらそう言う。横顔が綺麗で思わず見惚れてしまう遥斗。それを美晴と内村がにんまりとして見ている。
遥斗「そっか」
星蘭「あ、ほら行くよ!」
自分たちのクラスの列が動き出したのでそれについていく一行。
ロビーは重厚感のあるワインレッドを基調とした絨毯が迎える。照明にはシャンデリアが用いられている。初めて訪れる生徒が多く、思わずその雰囲気に辺りをキョロキョロしてしまう生徒もいる。その後、団体入場をして星蘭たちは1階の後方席にまとまって着席している。
○上演中・大劇場内
楽団の音出しが静かになり会場の照明が落ち、トップスターによる開演アナウンスが流れる。
トップスター「大変長らくお待たせいたしました──」
挨拶の後、観客は拍手を送る。楽団による演奏が始まり、いよいよ幕開けとなった。
上演シーン4-5コマ程度。観劇中には星蘭の心の声。
第1幕はお芝居、第2幕はショーという構成。1幕と2幕の間には休憩がある。
・お芝居シーン
・男役と娘役のキスシーン
・指先、爪先だけでなく、目線や眉など身体すべてを使って演技をしている様子
・男役群舞や娘役群舞
・トップコンビのデュエットダンス
星蘭(M)【こんなにも美しい世界がこの世にはある。】
【女性だからこそ表現できる男らしさと上品さを共存させる男役と、男役の魅力を最大限引き出し同性から見ても美しくて女性らしいと感じさせる娘役】
【どれだけ努力すれば、こんな風に表現できるのだろうか。私には想像できない。】
【観客を夢の世界に誘う妖精のような存在。彼女たちが、私の憧れだ──】
星蘭(M)【私はお芝居が好き。歌もダンスも好き。】
【舞台上の私を好きだと言ってくれるのは素直に嬉しい。でも、まだ足りない。もっと表現できるはずだ。役の良さを】
【この舞台を観て、もっともっともっと頑張りたいと思った。】
【そして……前よりもさらに娘役に挑戦してみたいという思いも、強くなったのであった……】
時間経過を表すコマ。終演。照明がついて、終演アナウンスが流れる。一般客が会場から出るまでしばらく待機。
隣に座っている美晴が星蘭の方を見て小声で呟く。
美晴「やばい。聖華ハマりそう……かっこよすぎた」
星蘭「でしょ? やっぱりハマっちゃうよね」
美晴「星蘭が目指そうと思うのもわかるわ。憧れるもんね」
星蘭「ね。私も改めてもっと頑張ろうと思った。いい経験になった!」
美晴「うんうん! 学校ありがたや~」
教員の促しで、星蘭たちも退場することに。バスに乗り、帰路につく。
バス車内では生徒たちは感想を言い合ったり、スマホを触っていたり、眠っていたり各々が好きなように過ごしていた。
美晴は眠っていたため、星蘭は車窓から見える景色を眺めながら、物思いに更けている。
星蘭(M)【もっと背が低かったらなぁ……】
聖華の舞台を観て、改めて自分が男役が好きであることを自覚する星蘭。それでも、女性らしさを追求した娘役の芝居や歌唱、所作にも心を惹かれた星蘭。男役が好きだけど、ヒロインにも挑戦してみたい星蘭の葛藤が生まれてしまう。
〇外・学校到着
美晴「ふわぁ、よく寝たわ。これから部活だわ~……余韻に浸りたいのに」
星蘭「そっか。バスケ部、休みほぼないもんね」
バスが到着し、学校の駐車場から歩いて部活のある者は校内に入っていく。美晴が嫌がる顔をしながらバスケ部の仲間と合流して校舎に向かうのを見送り、星蘭はそのまま校門を出ようとする。
本日は演劇部の部活が休みの日のため、星蘭はそのまま帰宅するつもりだ。
遥斗「星蘭」
星蘭「遥斗! 一緒に帰る?」
遥斗「うん」
星蘭「あ~最高だった。聖華。勉強にもなった」
遥斗「そうだね。俺もあんな風にやってみようかな」
星蘭「えーっ、遥斗が? でも、やってみるのはいいかもね。聖華風の男前な役とかも今回のでわかっただろうし」
遥斗「うん。身のこなし方とか、魅せ方みたいな部分は参考にしたいって特に思った」
ふたりは感想を言い合いながら最寄り駅へと向かう。電車に乗って同じ駅に降り、 また自宅まで少しだけ歩く。
帰宅途中にある聖華歌劇団を彷彿とさせる大階段のような階段がある広場を通ると、星蘭ははしゃぐ。
星蘭「いつも思ってたけど、ここの階段って聖華みたいだよね」
星蘭は男役が降りるようにして数段降りて遥斗の方を振り返る。 すると、遥斗も同じように降りていく。
遥斗「どう?」
星蘭「イイ感じ。でも、ここをもうちょっとこう、角度つけて……」
星蘭は普段部活でしているような雰囲気で遥斗にアドバイスをしてしまう。遥斗はそれを何も言わず受け入れる。
遥斗の手先に触れて、細かい表現まで伝えようとする。遥斗の方が数段上にいて、星蘭の顔がちょうど遥斗の胸元にある。
星蘭「あっ、ごめん」
星蘭は勝手に触れたことに対して照れることなく普通の様子で謝り、手を離す。
すると、遥斗は唐突に星蘭の肩を抱くように引き寄せて、まるでトップスターがトップ娘役を愛おしそうに抱きしめるようにする。
星蘭は何が起こっているのか理解するのに時間がかかった。
星蘭「……わっ、は、遥斗!?」
遥斗「こんな感じかな。ファンに見られたら怒られそうだけど」
星蘭「そ、そうだけど、って、あ、あああっ、はずかしい、からっ……」
遥斗「力抜いて。こわばってる」
星蘭は恥ずかしさのあまり離れようとするが、遥斗は力強く抱きしめる。
遥斗「誰もいないから大丈夫」
星蘭「そういうことじゃなくてっ!」
遥斗「ね、ほら」
遥斗に手を取られて階段を降りきる星蘭。階段の奥には噴水がある。
遥斗「スポットライトを浴びて、デュエットダンスを踊るんだ。リフトもしたりしてね」
星蘭「私が……遥斗と?」
遥斗「うん。俺と。卒業公演でそういうのができたらいいなって思う」
星蘭「っ……!」
遥斗「いつか見てみたいから。星蘭の娘役。前も言ったけど。あれ、本当だからね?」
愛おしそうに星蘭を見つめて愛の告白のように放つ遥斗に思わず赤面する星蘭。
遥斗「星蘭が迷うくらいなら、星蘭が俺を相手役にして『ヒロインをしたい』って思うくらいになってみせる」
噴水が水を噴き出す。星蘭は階段に座り込む。
星蘭(M)【もう、私は遥斗以外の相手でヒロインやりたいだなんて思えないよ……】
遥斗「あ、ここの噴水って水出るんだ」
星蘭「タイミングが合えばね」
遥斗「へえ、そうなんだ」
星蘭「さーて、帰ったら勉強しなきゃだなー」
遥斗「俺も」
星蘭「合同ステージの台本の読み込みもしなきゃだな」
遥斗「今日はやること多いな~。読み込んでで相談したいことあったらまた連絡するわ」
星蘭「いいよ、私もするかもだし」
ふたりはまたいつもの距離感で帰宅していくのであった。