スタァ・プレイ~舞台少女のナイショの願い~

第5話 コラボとジェラシー

〇陽栄高校・講堂

星蘭(M)【11月。今日は陽栄高校との合同稽古。今回が初の併せだから少しだけ緊張している。】 
佐倉「凰華高校のみなさん、ようこそ。陽栄高校演劇部の部長、佐倉です。早速ですが、今回の合同ステージイベントの概要について説明します。」 

 学校ごとにまとまって着席している。陽栄高校の1年生は星蘭のかっこよさを間近で見てざわざわしている様子。
 陽栄高校の講堂のイスに座り、佐倉龍之介(陽栄高校演劇部の部長)がマイクを使い説明をしている。
 佐倉の見た目はふわふわとした髪質で耳の見える短さのマッシュの黒髪。前髪は七三分け。身長は172㎝といった平均身長。やや細身。陽栄高校のジャージを着ている。

佐倉「配布済の資料を確認しながら聞いてください。まず、今回のイベントは地域の商業協同組合が主催者です。開催日時は12月第1日曜日。公民館の駐車場にはキッチンカーが何店舗か出店します。その他にはクイズ大会やビンゴ大会など子ども向けの企画が催されます。我々は公民館内のステージで劇を発表をさせていただきます」
「それでは、つぎにステージ発表の概要についてお話します。脚本は陽栄が担当しました。音響、照明プランは両校で話し合っていきましょう。そして──」

 陽栄高校の講堂のイスに座り、佐倉龍之介(陽栄高校演劇部の部長)がマイクを使い説明をしている。

星蘭(M)【合同稽古は11月毎週土日。平日は各学校で練習。台本は9月下旬には渡されていて、既にうちの練習は一通り済んでいる。】
 【佐倉くんは陽栄の部長。同い年とは思えないほどの落ち着きと統率力があって尊敬している。】 

佐倉「以上で説明を終わります。それではみなさん、よろしくお願いします!」

 佐倉の指示通り、各パートに分かれて移動する。星蘭、遥斗、佐倉たちキャストは講堂のステージを使って練習をする。
 脚本兼演出を担当する星野結実(2年生)がマイクを持ち、指示を出す。

星野「星野です。よろしくお願いします。それでは第1場から通していきます」
星蘭(M)【第1場は佐倉くん演じる吸血鬼伯爵と、うちの1年生である結城演じる花嫁エリーが出会うシーン。星野さんはファンタジーな世界観の恋愛モノが得意な脚本家……子どもを対象としているということは、わかりやすい表現が適切なのか?】

 星蘭は下手側にスタンバイしながら場の演技を見て、台本をぎゅっと握る。
 
 【『吸血鬼伯爵の花嫁』。吸血鬼伯爵は佐倉くん花嫁役は儚げ可愛い結城。今回の物語の世界観的にも適任だと思う。私は伯爵に命をも捧げていいと思うほど兄を慕う弟役……佐倉くんよりも背が高い私はどうやってそれを表現したら……】

 佐倉と結城がポジションにつく。星野の合図で演技が始まる。
 壮大なBGMが流れる。佐倉の歌い出しから始まり、そのあと結城のハモリが入る。プロローグ。
♪~
佐倉「月が照らす美しい花 真夜中に彷徨う 我が心を癒す~~」

 佐倉が歌う描写。遥斗は腕を組んで上手側から見ている。

遥斗(M)【へぇ……こういうのもあるんだ】  

佐倉・結城「たとえ運命が ふたりを引き裂こうとも いつかまた巡り逢う その時まで」
 
星蘭(M)【ノーブルな雰囲気に漂うほのかな妖しさ。まさにおとぎ話の吸血鬼。素敵……そして結城もプロローグから儚げで可憐な少女であることを示している。イイ。あんなに上達するとは思っていなかった。】
 【私も負けていられない】 
  
佐倉「人間の血は……頂けないよ」
結城「でもあなた、血が必要なのでしょ?」
佐倉「っ……これは、なんでもない」
結城「私の血ではだめ?」

 星蘭と遥斗はこの場の芝居を真剣な眼差しで見ている。
 そしていよいよ、星蘭と遥斗のシーンに入る。

星野「カット。佐倉と結城さんイイ感じ。園田さんもいいね。気弱なエリーを大切に思う兄って感じが表現できている。それじゃあ次の……伯爵弟と花嫁兄のエンカウントから。はい」 

 星野が手を叩き、始まりの合図。

星蘭(M)【ここは遥斗とふたりの練習でいっぱいやったところ……!】

遥斗「お前が吸血鬼伯爵か」
星蘭「いいや。僕は弟だ」
遥斗「お前に用はない。そこを退け」

 星蘭は佐倉の演技の雰囲気と少し合わせるように変更した。あくまで気品溢れる吸血鬼という自身の血に誇りを持つ気高い人物像。やや高圧的に遥斗の問いに答えてみる。

星蘭「彼女は自分の意思で兄上のもとに来た。邪魔なのは君だよ」
遥斗「嘘を言うな! エリーは……エリーは……」
遥斗(M)【星蘭、さらに良くなっている。主演のふたりが創り出した世界観を壊さずに役を演じている……それなら俺は、もっと妹思いの熱い兄にならないと】
星蘭「それに、兄上は彼女を花嫁として迎えたいと話している。いつまでも君が護るものでもないだろう」
遥斗「エリーは一度も伯爵のことを俺に話していない。だから信用ならん」
星蘭(M)【前よりも遥斗の演じ方が妹を大事に思う気持ちがダイレクトに伝わる。とってもイイ!】 
星蘭「ほう。僕が何を言ってもここを通ると?」
遥斗「ああ」
星蘭「手荒な真似はしたくないんだがね……僕も僕の役割ってものがあるからね。少々強引だけど力ずくで止めさせてもらうよ」
遥斗「それは俺もだ」
遥斗(M)【星蘭(伯爵の弟)を倒す……そうしないと、エリーは守れない】

 佐倉は星蘭に目を惹かれていて、瞳を輝かせて食い入るように芝居を見ている。
 佐倉には星蘭しか見えていない。そこに映る遥斗のオーラを快く思っていない表情。
 しばらく演技をしている風景のコマ。後に、時間経過を表すコマ。
 それと同時に星野のセリフ。
星野「はいカット! いったん休憩にしましょう。お疲れ様でした~」

 休憩の時間に入り、星蘭と遥斗はいつものようにペットボトルの水を飲みながら演技の話をしている。
 星蘭と遥斗が話している様子を見た陽栄高校1年生は隅で拝むようなポーズをしながら語っている。

他校1年A「剣崎先輩かっこよすぎる……部長の伯爵もいいけど、正直剣崎先輩のバージョンも見てみたいって思った……」
他校1年B「わかる。あの背の高い男子の先輩……園田先輩? との掛け合いも息ぴったりで迫力あったしね」
他校1年C「凰華の子に聞いたら、転校生で途中入部したみたい。しかも演劇部入るまでバレー部だったみたい」
他校1年A「えーっ!? すごい! 全然そう見えないよね」
B・C「それな!」

星蘭「遥斗の演技すごく良かった! 学校でやってた時とまたちょっと違う雰囲気だったし」
遥斗「それは星蘭もだよ。主演に合わせる判断を瞬時にできるの、すごいと思う。なかなかできないよ、俺には」
星蘭「そうかな? てか、それが伝わっていたなら良かった~」

 佐倉が星蘭に話しかける。
 
佐倉「剣崎さんお疲れ様。今回のお芝居もとても素敵だったよ」
星蘭「あ、佐倉くん。おつかれ。ありがとうね。主演ふたりの雰囲気も序盤から物語の世界に入り込めるような感じで良かったと思う!」
佐倉「ははは。剣崎さんにそう言ってもらえると嬉しいな。ところで、そちらの……」
星蘭「ああ! 途中入部だったから陽栄のみんなには驚かせちゃったかも。園田遥斗。うちらと同じ2年生。うちに転校してきたんだ」
遥斗「どうもっす」
佐倉「よろしくね。園田くん」

 佐倉の胡散臭い笑みに遥斗はぶっきらぼうに返す。ここで遥斗は佐倉に若干の敵対的な感情を抱く表情。

佐倉「剣崎さんにすこし確認したいことがあるんだけど、いいかな? ここのセリフの掛け合いなんだけど……」
星蘭「ん? どこかな?」

 星蘭に近づいて話しかけ、星蘭もそれに応えるために台本を持ち佐倉と話す。身振りつきで演技プランについて話し合うために遥斗から少し離れてふたりで作業をする様子を遥斗は脇に移動しながらじっと見つめてしまう。
 
結城「園田先輩、お疲れ様です~」
遥斗「結城か。おつかれ」
結城「なんですか? ああ、あの2人」
遥斗「何か知ってるのか?」
結城「仲いいよな~って見てただけですよ」
遥斗「……そう見えるよな、やっぱり」
結城「恋愛関係ではないみたいですけどね」
遥斗「それ、本当?」
結城「真実は本人にしかわからないですからねぇ。確かめるしかないですよ」
遥斗「そうだよなぁ……」

 遥斗は腕を組んで悩み込む。

結城「応援しますよ、私」
遥斗「え?」
結城「何か手伝えそうなことあったら言ってください」 
遥斗「おう……?」
結城「じゃ、私はこれで」

 結城はにやりと笑って、陽栄の1年生に声をかけにいく。
 
遥斗(M)【何なんだこのモヤモヤ……あの佐倉とかいうヤツと星蘭が一緒にいるところ見ると嫌になる。】

 しばらくして練習が再開し、時間経過。昼休憩も含めて15時まで練習があった。
 時間経過の間は練習風景のみで表す。

 時計は14時50分を指していた。
 
佐倉「それではキリもいいですしここらへんで今日は終わりますか」
星野「そうね。今日の目標、達成できたし。なんなら進行状況的にはだいぶ進んでる。みんなありがとう!」
佐倉「わかりました。では、これで本日の練習は終了します。お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。」

 陽栄高校の部長は戸締りもあるため、凰華高校の生徒が帰るまで帰らないため見送りをしている。

佐倉「お疲れさま。剣崎さん。じゃあまた明日」
星蘭「あ、うん。お疲れさまでした。また明日」 

 佐倉の爽やかな笑顔と、特に表情を変えずにあくまでいつも通りの凛々しい佇まいのまま星蘭は手を軽く振って挨拶する。
 その姿すらも様になるようで、陽栄高校の1年生は小さい声でキャーっと騒いでいる。
 遥斗は佐倉に無意識のうちに睨むような目線を送る。佐倉は気にしないふりをしているがしっかり把握している。

遥斗(M)【なんだよアイツ……】

 星蘭たちは下駄箱のある生徒玄関から帰る。靴を履き替える。

〇外・帰宅中

結城「星蘭先輩! 園田先輩! お疲れさまでした~!」
星蘭「おつかれ~」
遥斗「おつかれ」
 
 結城は遥斗にウィンクして走って帰っていった。
 遥斗は結城が言わんとしていることを理解しているため、息をのむ。

遥斗「疲れたな」
星蘭「そうだね~。でも楽しかった」
遥斗「他校とやるのって新鮮だったな。勉強になった」
星蘭「それなら良かった。部長だけじゃなくて、みんなレベル高いもんなぁ」
遥斗「うん」
星蘭「佐倉くん、やっぱ主演やると華があるんだよね。羨ましいよ」
遥斗「星蘭は、アイツのことどう思ってるの?」

 11月の帰り道。少しだけ寒い。空は秋の模様。

星蘭「尊敬してる。物腰柔らかなまとめ役でしっかり者じゃん? それでいて丁寧な役作り。脚本の子との相性もいいんだろうけどね」

 星蘭は楽しそうに話している。遥斗は嫉妬の気持ちが胸の中で渦巻く。

遥斗「そう……でも、アイツは違う感情持ってる気がするけど」
星蘭「どういうこと?」
遥斗「俺には恋愛的な感情にしか見えないから」
星蘭「恋愛的な感情って? まさかそんな」
遥斗「あーっ! なんか気に入らねぇ。アイツ、お前のこと好きなんじゃねぇの?ってこと。妬けるからあんま仲良くすんな」
星蘭「はぁあ!? でもお芝居の上で必要な打ち合わせとかもあるし──」
遥斗「そういうことじゃなくて……!」
 
 スピードが速い車が急に後ろから来て、遥斗は反射的に星蘭の両肩に手を添えて白線の内側に寄せる。

星蘭「あっ」

 星蘭は赤面する。遥斗は平然としている。

遥斗「俺はアイツと星蘭が仲良くするのが嫌。なんかモヤモヤする」
星蘭「モヤモヤ……」
遥斗「そう。だから、俺はアイツと仲良くしてんのを見たくないの」
星蘭「それはわかったけど……」
遥斗「今まで一緒に練習してきた星蘭が、ほかのヤツにとられちゃう気がして」

 遥斗は恥ずかしそうに言う。星蘭は笑う。

星蘭「ははっ! なんだ~可愛いなぁ遥斗」

 笑う星蘭を置いていこうと遥斗は足早に歩きだす。

星蘭「ちょっと~遥斗~」
遥斗(つい言ってしまったけど、これ告白ではないよな? 今はまだ言ったらダメだ……)

 しばらく無言で歩くふたり。星蘭は遥斗についていく。

星蘭(遥斗、佐倉くんと私が話してるの見てて嫉妬してたんだ……それって、どういう気持ちから?)
 (私と遥斗は、同じ気持ちなの? それとも違う気持ち? わかんないよ……)

 星蘭は胸を抑えて苦しそうに歩く。
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