秘め恋10年〜天才警視正は今日も過保護〜
眠れないほど落ち込んだ分、泣きたいほどに嬉しい。

けれども結婚すると言われる可能性もあるので、心に盾を構えて恐る恐る電話に出る。

「もしもし」

「俺だ。今、どこにいる?」

「引っ越し屋。バイトが終わってこれから帰るところ」

「このあとの予定がないなら――いや、すまないが予定があってもこっちを優先してくれ。今すぐ、お前に会いたい」

独占欲や恋愛感情があるかのような言い方に心臓を大きく波打たせてしまったが、大和のことだからそういう意味ではないはずだ。

それでも会えると思うと心が弾んだ。

「用事はないからいいよ。もしかしていつものお寿司屋さんに予約を入れてくれてた?」

「いや、寿司屋はまた今度、時間がある時に行こう。今日はお前の家に行く」

この前の引っ越しは例外として、祖母が亡くなって以降、葵のひとり暮らしの家を大和が訪ねるのは珍しい。

「どうして、うちなの?」

「俺に入られたくない事情があるのか?」

「そうじゃないけど――」

「ならいいだろ。ふたり分の弁当を買って行く。それじゃ、あとでな」

一方的に決められて電話が切られ、目を瞬かせた。

(今日はなんだか強引。変なの……あっ、急がないと)

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