秘め恋10年〜天才警視正は今日も過保護〜
足早に出ていった菜美恵の背を大声で引き留めたい気分にさせられた。

(勘違いしたまま出ていかないで。大和さんとふたりきりなのが、すごく気まずいんですけど!)

「早く来い」

大和はさっさと階段を上り始めている。

(なにも気にしてないみたい)

彼氏かという問いを肯定したのは、関係を説明するのが面倒だったからではないだろうか。

その推測が当たっているかは聞けず、大きな背を追いながら心を落ち着かせようとした。

自分の部屋の玄関ドアを開けて中に入り、照明のスイッチを押す。

「今、エアコン入れるね。狭いからすぐ暖かくなるよ」

「寒くはないがお前に任せる。部屋の中、少し見せてもらうぞ」

「うん――えっ、なんで?」

リモコンを手に振り返ると、大和が浴室を覗こうとしている。

洗面台と浴槽、トイレが一体となった狭いスペースの照明が点けられて慌てた。

「ちょっと待って!」

駆け寄って大和の腕を引っ張り、中に入られるのを阻止すると、眉間に皺を寄せられた。

「俺に見られて困るものがあるのか?」

「あるよ。今、片づけるから待って」

「シェーバーやふたり分のハブラシを隠す気か?」

「なに言ってるの? ひとり暮らしなのにそんなのあるわけないでしょ」

今朝、干した洗濯物がある。

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