秘め恋10年〜天才警視正は今日も過保護〜
すべてを捧げる日
窓から見えるのは夜明けの曇った冬空と四車線の大通り。

いい眺めとは言えないが、隣家の外壁しか見えなかった前の住まいに比べると圧迫感が取れて清々しく、住み慣れた街に戻ってこられたのも嬉しかった。

ここは大和の自宅で、警視庁の庁舎からほど近い場所にある高層マンションの十階だ。

間取りは1LDKでリビングダイニングは十五畳ほど。

ワンルームのアパートから引っ越してきたのはつい昨日のことだ。

時刻は六時四十五分。

部屋着の上にエプロンを着た葵は、アイランド型キッチンに立っている。

ふたり分の朝食を作りながら交際をスタートさせた五日前を思い出し、頬が緩んだ。

(捜査が終了しても一緒に暮らしたいって言ってもらえた。私って、自分が思うよりずっと愛されているのかも)

あの日、シーフードカレーを食べながら聞いたのは、葵の部屋での捜査が数日内に終わるという話だった。

それは同棲の終了を意味しているので寂しく思っていると、大和の自宅で一緒に暮らしたいと言われた。

驚いて嬉しく思ったけれど、遠慮が先に立って一度は断った。

彼のことだから、葵の生活費の心配からの提案だろうと思ったのだ。

すると真剣な目をした彼に説得された。

『ためらう理由はなんだ? 俺たちは恋人になったんだ。同じ家で暮らすのはおかしいことじゃない』

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