秘め恋10年〜天才警視正は今日も過保護〜
心の中で告白したその時、寝ていると思った大和に呼びかけられた。

「葵」

驚きでビクッと体が震え、咄嗟に手を引っ込めようとしたが、手首を握られて阻止された。

「俺は男だぞ。わかっているのか?」

どういうつもりで聞くのかと戸惑いつつも、憎まれ口を叩く。

「わかってるよ。そっちこそ、私を女だと思っていないくせに」

「思ってる」

「えっ」

「葵は成長して大人の女性になった。もう妹だと思えない」

(本当に……?)

目を見開いたのと同時に彼が寝返りを打った。

凛々しい眉の下にあるのは精悍な瞳。

息がかかる距離で視線が交わうと、心臓が壊れそうなほど激しく波打った。



* * *



十月後半ともなれば日没後の気温はぐっと下がり、カーキ色のマウンテンパーカーを着た葵は冷たい風を切る。

五年ほどの相棒は百二十五㏄の白いスクーターで、ふたつ前を走る黒塗りのタクシーを追っていた。

(スクープの匂いがプンプンする!)

タクシーには多野元(たのもと)というスーツ姿の男性が乗っている。

与党に所属する中堅の衆議院議員だ。

葵の仕事はフリーライターで、政治家や官僚など権力者の汚職を記事にしている。

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