秘め恋10年〜天才警視正は今日も過保護〜
似た者同士のすれ違う恋
葵の引っ越しから数日が経った週初め、大和は所属している警視庁ではなく警察庁に赴いていた。

警視庁は東京都、警察庁は日本全域を管轄している。

重厚感のある会議室に集まっているのは、全国から五十人ほど集まった警備警察の幹部だ。

警備警察の有名な部門と言えば、公安だろう。

過激派などによるテロやサイバー攻撃、対日有害活動の取り締まりをしている。

四年前の昇進時に公安部に異動となった大和は、参事官として務めている。

管理職なので表に立つ立場にあり、潜入調査員のように警察職員に対しても素性を隠すということはないが、一般人に身分は公表しない。

だから葵にも『古巣に戻った』としか言えず、刑事だという彼女の誤解を解かないままにしていた。

今日の会議は特別なことではなく、定例だ。

この日は濃紺の制服を着用し、警視正を表す金の階級章を胸につけている。

滞りなく二時間ほどで会議が終了すると、大和は真っ先に会議室を出た。

昨日、気になる事件が発生したため、その対応に忙しく足早になる。

しかし階段に向かう廊下の途中で、後ろから大きな声をかけられた。

「加賀見くん」

振り返ると、頭髪の半分が白くなった肩幅の広い男性がゆっくりとした足取りで近づいてくる。

警察庁の警備局長だ。

(この忙しい時に……)

厄介な人に捕まったと思っても、警察は縦社会なので話さないわけにいかない。

「敷島(しきじま)局長、おつかれさまです。ご無沙汰しておりました」

姿勢を正して会釈すると、親しげに肩を叩かれた。

< 48 / 218 >

この作品をシェア

pagetop