秘め恋10年〜天才警視正は今日も過保護〜
あれは忘れもしない十三年前の、父の葬儀でのことだ。

家族での葬儀に警視庁の高い階級の人たちが参列してくれて、涙が止まらない葵に声をかけてくれた。

『君のお父さんは英雄だ』

『お父さんはとても立派だったんだから、胸を張って』

慰めようとしてくれているのはわかったが、父の死を喜べと言われた気がして余計に悲しかった記憶がある。

気分が悪くなった葵はいったん控室に下がって横になり、開式のアナウンスを聞いて急いで式場に戻ろうとした。

その時に廊下の隅で、部下とひそひそと話している警視総監を見かけた。

『まったくこの忙しい時期に』

『総監は警察葬だけのご参列でよろしかったのでは?』

『そういうわけにいくまい。持ち上げておかないと、あとから面倒なことを言ってくる遺族もいるからな。それにしても検挙中に銃撃されるとは呆れる。すぐに捕縛できたならまだわかるが三時間後だ。高野の殉職は犬死
に以外のなにものでもない』

聞いてしまった警察上層部の本音に強い衝撃を受けた。

あの時の悲しみと悔しさは何年経っても忘れられない。

それまで葵の夢は父と同じ警察官になることだったのだが、犬死になどとひどい発言をした上官の下では働きたくないと思い、別の道で正義を模索した結果、今の職業に至る。

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