天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
そして向かって左から一人の男性が歩いてきた。

うわっ。
なんかすごい。

この人が…

ピアノの前まで来ると、その人は一度会場を見上げ席をぐるっと見るとそれはスマートに頭を下げた。

そして華麗に燕尾服の裾をスッと後ろになびかせ椅子に座った。

そのただならぬ佇まいとオーラに思わず息を殺して見入ってしまう。

彼はスッと鍵盤に手を置いた。

この緊張感は一体なんなのか。

そしてスッと息をひとつ吸うと彼は鍵盤を弾き出した。

す、すごい…。

あまりに繊細で、それでいて迫力のある演奏を聞いて身体に駆け巡る音色の嵐。

彼の指から奏でられるピアノの音は私の心に真っ直ぐに届いた。

ドクンドクンと鼓動が早くなる。

繊細かつ大胆でしっとりとした音色からは、まるで彼に包み込まれているかのような錯覚を起こしてしまいそうになった。
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