天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
ひとまず飯だな。

そして買ってきたイヤホンを渡して、飯を食いに出かけた。

料理を待つ間、翠と話をする。

「パリの時、よく私だってわかったね」

「まぁ。衝撃的だったしなお前の印象」

「いやこっちのセリフねそれ」

そう言って笑う。
俺も笑ってしまう。

あの時俺は相当、失礼な態度を取ったし。

「俺、海外でずっと生活してたんだけど、追っかけが凄かったんだよ」

「そうだったの?」

「ああ。あの時の翠みたいに出待ちしてぶつかられて、クリーニングをとか言って連絡先を交換しようとする女がわんさかいたんだ」

俺は正直にあの時の事を話す。

「あー、なるほど。まさにだったのね」

「悪かった。あの時泣いてたよな?」

「うん…。なんかね、律の曲聴いてたら自然に出ちゃって。あまりの衝撃にしばらく放心しちゃってたら、警備員に声かけられて慌てて外に出たらぶつかっちゃったの! あははは」

そう言って豪快に笑う翠。

おいおい翠ちゃん。
嬉しい事をサラッと言うなよ。
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