天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
「で、ではこちらで焼かせていただきます」
そう言って女性の店員は目の前の鉄板で調理を始めた。
が、緊張しているのか手が震えている。
名札のプレートには若葉マークがついていた。
「ゆっくりでいいですよ」
「あ、す、すみません」
「ふふふ。入ったばかりなんですか?」
翠も混ざってきた。
「あ、はい。まだ緊張してしまって」
「私も作る時緊張します。裏返す時なんて特に! 律した事ある?」
「いやないな。俺絶対どっか飛ばすよ」
「ははは! 私真っ二つなる!」
「それで騒いでるの想像できるわ」
たぶん翠はスタッフが緊張しないようにこんな話を始めたのかもしれない、そう思った。
そんな話をしていれば店員も少し緊張がほぐれたのか笑顔で話を聞きながら、綺麗に裏返した。
「「おー。すごい」」
翠と声がリンクする。
「やっぱり上手!」
翠はパチパチと手を叩いている。
「あ、ありがとうございます。あ、あの…もしかしてピアニストの…?」
あー、バレた?
翠をチラッと見るとクスクス笑っている。
俺は何も言わずにシーっとジェスチャーだけしてみせると、店員はコクコクと頷く。
そして騒がずにソースやマヨネーズなどをかける店員。