天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい

店を出て少し離れた駐車場まで歩く。

あーキスしたい。
この距離がもどかしい。

そして車まで行くと、子供と母親が俺の車を見ている。
母親は子供の手を引っ張って離れようとしているみたいだ。

翠と目を合わせる。

俺はキーでエンジンをかけた。
すると急にライトが光りブォンと音を出した車に案の定驚く親子。

「ちょっと！」

翠に肘で小突かれる。

「くくく」

俺は近く。

「中、見ますか？」

「あ！　すみません！　そんな！　いいですいいです！」

そう言って慌てる母親。

俺は子供の前にしゃがんだ。

「乗ってみる？」

「いいの？」

「いいよ、ほらこっちだ」

そう言って運転席を開けて幼稚園児くらいの男の子を乗せる。

「すみません、本当に」

母親が申し訳なさそうに謝ってきた。

「いいえ」

「ママ！　写真！」

「いや、それは…」

「ナンバーさえ隠して貰えば構いませんよ」

「ありがとうございます」