天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
かと思えば、超絶技巧から成されるもの凄い殺伐として緊迫した空気に私だけではなく、ここにいる会場の誰もが息をするのを忘れてしまっているだろう。

これが、クラシック界の神童とも呼ばれている人の演奏なのか…。

ステージで演奏を奏でる彼の名は、鶴宮 律(つるみやりつ)。

彼はモデルさながらの眉目秀麗なその姿で演奏を繰り広げている。

その指から次々に弾かれる旋律を全身に浴びてもう言葉が出ない。

もちろん容姿も素晴らしいが、私は目を閉じ奏でられる演奏に引き込まれるように聴き入る。

本当に素敵な音色だ。

名前くらいは知っていたが機会がなくてこれまで聴いたことはなかった。

きっと彼はこんなに柔らかく温かな演奏をするくらいなのだから、さぞかし優しくて寛大な心の持ち主なのだろう。

すっかり夢中になって目を閉じて聴いていると、胸が熱くなるのを感じた。
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