天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
目を開け涙を拭くのも忘れて私は皆んなと一緒に盛大な拍手を送る。

全員が迷わずスタンディングオベーションだ。

彼は弾き終わって上げたままだった右腕をそっと下ろし一度深呼吸をした。

そしてスッと立ち上がりまた客席を全体的に見渡す。

その佇まいにきっとこの会場にいる全員が男女問わず羨望の眼差しを向けている事だろう。

その時一瞬彼と目が合った気がしたが気のせいだ。
よくあるマジック的なやつ。

彼はピアノに片手を添えて完璧な角度でお辞儀をした。

会場からは更に盛大な拍手が送られ、彼は口元に静かに笑みを浮かべるとステージの袖へと去っていった。

彼がいなくなった後もしばらく鳴り止まない拍手。

私も一緒になってずっと拍手を送り続けた。

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