天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
ホテルに戻って熱いシャワーを浴びてすっかり冷えてしまった身体を温める。

今日のでよく分かった。

私は律の彼女ではないんだと。

きっとあの幼馴染のあの人が本命。
お似合いだった。

維織と奏翔みたいだった。
敵わないよ…。

目から涙が零れ落ちる。
シャワーでそれを流すもなかなか止まってくれない。

寒い。
何もかもが寒い。
身も心も全部冷え切ってしまったかのように。

本当に。
なんで来たの。

こんな事になるなら来なきゃよかった。

「律のバカ! 好きって言ったじゃないっ…」

一回きりとはいえあんなに愛おしそうに私を抱いたじゃない…

「ふっ…うっ…」

シャワーの音に混ざって、私のすすり泣く声がお風呂場に響く。

このまま全部、綺麗に流れ落ちていけばいい。

床を流れるシャワーを見下ろしそんな風に思った。
< 163 / 311 >

この作品をシェア

pagetop