天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
裸のまま腕枕をされて夕陽が沈むのをまどろむ中見届ける。

「俺、キスとかしなかったんだあんまり」

律が気まずそうに話し出した。

「え?」

「翠にくらいだぞ。こんなするの」

「そうなの?」

まぁ、言うて私も仕方なくって感じだったけど。
なんならしれーっとかわして拒否してた。

「ああ。旅行だって連れてったりしなかった」

「あ、結構ドライ?」

なんか丈慈たちみたい。

「そうだな。言っちゃなんだが…いや、なんでもない」

「なに! そこまで言って言わないの無し」

「嫌いになんなよ?」

「なんないよ」

「相手なんて誰でもよかった」

やっぱりな。

「今は?」

「反応もしないだろうな、もう」

「はは。そういうもの?」

「ああ。割と下は別物だったりするけど、もう無理だな」

「なにそれ。へんなの」

「俺も思う。男ってへんなんだよ」

フッと笑うその横顔がとても綺麗だった。

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