天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい


「翠。律くんなら大丈夫だ、焦るな」

そう言ってママがしたように頭をぽんと撫でられる。

パパには私が焦っているのがわかってしまったようだ。

私はコクコクと頷く。

「次はお前だな」

丈慈もいつの間にか側にいてこそっと言われる。

だといいんだけど。

その後もやはり律からのプロポーズの言葉はない。

なんなら日本にいない。
ソロツアーがあって各国を忙しく飛び回ってる。

そんな中、季節は夏に変わりパパに呼ばれる。

「失礼します」

ノックをして社長室に入る。

「おお翠。実はここだけの話、そろそろ代替わりを考えてる。それでなんだけど、お前はそのまま次の後任についてくれ」

「え? 丈慈と大河は?」

「あいつらには別の者をつける」

「な、なんで!? 私じゃ務まらないって事!?」

「違う違う。そうじゃない。この先の生活も考えてだ」

どういう事それ。

「わ、わかりました」

「まだあいつらに言うなよ」

「承知しました」
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