天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
え、待って。
ここって…

家にあったアルバムの写真で見たことある。
パパがママにプロポーズした場所じゃん。

すると律がおもむろに立ちすくむ私の前にひざまづいた。

え…!?

そして小さな四角い箱を出してパカっと開けて見せた。

嘘だ…

「翠。結婚しよう」

それは聞きたくて仕方がなかった言葉だった。

私の目に一瞬にして涙が浮かびポロポロとこぼれ落ちる。

「はいっ…お願いしますっ…」

なんとかそう答えると律は立ち上がって、その綺麗な指でそっと私の涙を拭う。

「翠。愛してる」

律…
込み上げるこの気持ちをどうやっても抑えられない。

私は勢いよく飛びつく。
するといつものようにガシッとその逞しい身体で受け止めてくれる。

「律っ…律っ…」

私も愛してるとそう言いたいのに名前を呼ぶ事しかできない。

「翠、泣くな」

律は私の顔を覗き込み濡れた瞼にキスをする。
優しく、何度も。

その唇から律の愛が伝わってきて余計に涙が止まらなくなる。

「困ったなこりゃ」

そう言って笑い出す律。
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