天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
うわ。
今日も今日とて凄いオーラを放っている。

丈慈をチラッと見れば、丈慈も真っ直ぐにステージを見ていた。

「あれが日本人ピアニスト?」

「そう」

「へぇ。かっけぇな」

同じ男性から見ても彼はカッコいいらしい。
でも中身は腹黒だよとは言わないでおく。
大人なんで。

指揮者が指揮棒を振り、いよいよ演奏が始まった。
彼はまだ鍵盤に手を置かない。

しばらくしてスッと手が動いて鍵盤に置いた。
そして指揮者の合図でピアノが奏でられる。

やっぱりすごい。

いくつもの音が重なって、分厚い音色となりズドンと胸に突き刺さってくるような感覚に、鳥肌が立ってしまう。

今日の彼は黒の髪をかっちりとジェルで固めてオールバックにしていて、彼が頭を動かす度に一筋下りた前髪が僅かに揺れる。
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