天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
一人で演奏している時とは違い、しっかりとオーケストラの音色と調和させるかのように息を合わせピアノを弾いている。

人に合わせるとかできるんだ。

しかもなんか笑ってないか?
あんな顔できんの?

あの顔も作り物?

私はまた目を閉じて音色に集中する。
こんなに大勢の人が集まっているのに、奏でる音色には一寸のズレもない。

ただひたすらに音の矢が次々と真っ直ぐ胸に突き刺さる。

音を聴いているだけなのに、まるで目の前で彼を見ているかのようにその表情が脳内に浮かび上がる。

長調の弾むように楽しそうな音色からはまるでスキップしている様なそんな軽快なリズムで鍵盤を弾く。

かと思えば、短調に変わり重く重厚感のある音色はまるで暗闇へと連れていかれそうなそんな感じだ。

同じ人が演奏しているとは思えない程いろいろな表情を見せる音色。

まるで完璧にピアノと一体化しているような。
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