天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
「あの単刀直入に聞きます。あまり私との交際は認められておられませんか?」

純平さんはゆっくりと注いだ酒を口にした。

「いや、これでも嬉しく思ってるよ。ただ翠が可愛いだけ」

「それだけですか?」

「まぁ、実を言うと律くんは俺よりハンサムだからヤキモチは妬いてるな」

は?

「俺がピアニストだからとかじゃなくて?」

つい驚いて敬語が取れてしまう。

「ピアニスト? それは大変素晴らしい事だろ。努力する男は嫌いじゃない。もちろん才能もあるだろうが、君の演奏聴かせてもらったよ。とても素晴らしかった。努力しないとああいう演奏はきっとできないだろ?」

胸に響くその言葉にこの人の器の広さや人の良さを感じた。

翠はこういう家族のもとで育ったからあんな素敵な女性になったんだとすぐに理解した。
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