天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
「ギックリ腰…」

俺はその瞬間ドサッと近くにあった椅子に腰掛ける。

「あの…ごめんね?」

「いや。いい」

ったく大河のやつ。
情報少なすぎんだよ!
俺はとりあえず安心して顔を手で覆った。

まず、大事じゃなくてよかった…

「律…」

「ん?」

俺はそのまま声だけ返事する。

「あの…」

ああ。申し訳ないかんじか。

「無事だったならいい」

本当に一瞬でも翠に何かあったらと思って焦った。
どう考えても翠なしじゃ俺はもう無理なんだとつくづくわかったから。

「そうじゃなくて…」

「そうじゃない?」

俺はようやく手をどけて顔を上げ翠を見る。
すると翠がゆっくりと腰を押さえながら俺のところまで歩いてきて、俺の手を握った。

「律あのね。いろいろ検査したの」

「え? 何か病気でも見つかったのか!?」

翠は首を横に振る。
< 290 / 311 >

この作品をシェア

pagetop