天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
そして見事に手術の日まで翠は子供達を腹の中で守った。

本当に逞しいその姿に俺はますます翠が愛おしく想う。

術中やはり気が気じゃない。
油断は禁物だ。

祈るように出産を待つ。

こんなに時間が長く感じるとは思ってなかった。

どうかみんな無事に…
頼む。
なんだってする。

本当にそう思った。

そして手術中のランプが消えて俺は呼ばれた。

「奥様は麻酔でまだ眠ってますが、容態は安定していますし、赤ちゃんも二人とも元気に産まれましたよ! おめでとうございます!」

静かに目を閉じる翠を見て思わず涙が堪えきれず泣く俺。

翠…
良く頑張ったな…

心の中で翠に語りかける。

あまりに静かに眠っているので大丈夫かと心配になるくらいだ。

「あの、妻は本当に大丈夫なんですよね?」

「ええ。大丈夫ですよ。数時間すれば眠りから覚めますからね」
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