天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
〜律side〜

今のってやっぱりあの女だよな?

ここパリだよな?

移動するワゴンに揺られながら思いふける。

公演が終わり宿泊先のホテルへと向かおうとしている時、路上でドレスアップした男女が抱きしめあった後、見つめ合い男に顎を持ち上げられキスをしていた。

何故か目が止まり見てみると、どうやら日本人のようだった。

しかもあの女だ。
日本で公演した時に出待ちしてたくせに、偶然を装ってわざとぶつかってきてジャケットに口紅を付けやがったやつ。

男いたのかよ。

なのにわざわざ俺にあんな事してきたのか?

今日の公演が終わり客席を見渡した時、あの女を見つけた。
拍手をしながら隣の男と耳元で囁きあっていた。

忘れもしない。

見事に流暢なドイツ語で言い返してきて金を突きつけられた。

あんな気の強そうな女、ましてや俺に言い返してくるような女は初めてだったから覚えていた。







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