天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい

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「は？」

俺は思わず口から声を漏らす。

日本に生活拠点を移して二日目。


俺の視線の先には少し前にパリであの女と一緒にいた男が、別の女を隣に連れて歩いているではないか。

なぜだか俺は考えるよりも先に身体が動いてしまって、気づけば男の肩に手をかけてしまっていた。

男は振り向く。
一瞬驚いた表情を見せた男だがすぐにスンとした顔になり口を開いた。

「なにか？」

「君は…」

パリであの女と一緒にいてキスしていた男だよな？

そう言いそうになり言葉を飲み込んだ。

男の左手の薬指には結婚指輪が光っていて、隣にいるこれまた美人の女性にも付けられているのが見えたから。

この二人は夫婦なのか？

それじゃあの女は遊び相手にされているのか？
彼女はそれを知って？
だから泣いていた？
不毛の恋をしている？

「ん？　君は…」

まずい。
こんなところで騒がれても困る。