天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
今は黒のキャップを深く被り、顔を隠している。

その男はチラッと周りに目をやったあと隣に並ぶ女性と目を合わせる。

俺も周りに目を向けると僅かだが俺たちを気にして見ている人たちがいた。

「天音、先に行っててくれるか?」

「ふふふ。わかったわ」

そう言ってその女性は笑うと俺に一度頭を下げてモデルのウォーキングのように華麗に去って行った。

「少しはじに寄ろうか」

男にそう言われて場所を移動する。

「あんた結婚してるのか?」

初対面で俺もなんて不躾なんだ。
でも何故か冷静になれない。

「だったらなんだ? 君に何か関係あるか?」

彼は口元に僅かに笑みを浮かべ俺を見る。

「いや、あちこち女を相手にして随分と忙しそうだな」

俺はそう言って笑い返してやった。

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