天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
そして後日、一人で街を探索してすっかり陽も落ちて夜になってしまう。

俺が日本を生活拠点にした事は公表されていない。
海外では熱烈なファンが追いかけてきてそれは大変だった。

何度も引っ越しを余儀なくされ本当に迷惑極まりない。

それに比べて日本人のファンはまだマナーが良いのかもしれない。

俺に気付いてもあからさまに悲鳴をあげたりサインや写真を求めてきたりはしない。

何人かにはサインを求められたが、とても礼儀正しかったし、俺もそういう場合は対応できる時はなるべく真摯に対応するようには心掛けている。

あの女だって、あんなわざとらしくぶつかってさえ来なければ普通に対応していたと思う。

これまでだって、何度も同じような事があってその度にクリーニングだとか言って連絡先を交換しようと色目を使って来られた。


そして歩道橋を登ったところで一人の女性がまるで身を投げ出そうとしているかのように思い詰めた顔で下を向いているのが見えた。

しかもあの女じゃねぇか!

靴まで脱いで何やってんだ!

あの男にフラれたか!?

その時その女が更に身を乗り上げた。

「早まるな!」

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