天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
うそっ!
やだー!
えー!?
私は靴ズレを起こしたヒールを脱いで、手すりに足を掛けて下を覗き込む。
見つかるわけないのに。
片耳からは変わらずピアノの音が流れている。
しかもよりによって短調でしっとりめのやつ。
なんか泣きそう…。
えー?
本当にぃ?
こんな事あるー?
諦め悪くもう一度下を覗き込んだその時、誰かに後ろから引っ張られた。
「早まるな!」
え!? は!?
何を!?
状況が掴めず、尻餅をつくようにその人の上に乗ったまま動く事ができない。
「こんの馬鹿! なにしてんだ!」
「へ!?」
男性に怒鳴られ振り返る。
するとそこにはあの鶴宮 律がいるではないか。
「はぁー!? んなっ、なんでっ!? なんで鶴宮 律!?」