天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
するとバッと口を大きな手で押さえられる。

ングっ!

「大声出すな! バレるだろ」

そんな彼は、ラフなフード付きの黒のパーカーにキャップを深く被って、同色のジョガーパンツに白のソックスとゴツめのスニーカーを履いていた。

一見、普通の兄ちゃんにしか見えない。
まさか世界的ピアニストだなんてよっぽどファンじゃない限り誰も気づかないだろう。

え?
なんでここにいんの?
ウィーンに住んでるんじゃないの?

私はとりあえずコクコクと頷く。

するとスッと口から手が離された。

「お前、何で飛び降りなんて」

は?

「早まるな。まだ人生は長いだろ。この先いい事だってたくさんあるぞきっと」

へ?

「いい男だって現れる」

男?
なんの話し?
いや、彼氏はしばらくいませんけど。

そんなにいなさそうだった?
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