天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
そして私がご馳走するつもりだったのに、あっさり断られて奢られてしまった。

「なんか、ごめんね」

「そこはありがとうで」

「あ、ありがとう。ご馳走様でした」

「ん。もうちょっとだけ時間あるか?」

「え? あ、うん」

そして車に乗ってとあるマンションへと入って行く律。

車から下りて買ってきた寝具を両手に持って歩き出した。

「来て」

ここって、律の家?

「大丈夫。何もしない」

立ち止まる私に、少し眉を下げて笑う律。
いや別に意識してるわけじゃ…

とりあえずついて行く事にする。

「私も持つよ」

「悪いな。それじゃこれお願い」

そう言ってカバーの入った袋を持たされた。

「まだいける」

「クク。あと大丈夫。あ、んじゃ鍵開けて」

そう言って両手が塞がったままの律は、腰をクイっと私に向けた。

「ポケット?」

「ん」

ポケットからキーをとって私はエントランスのロックを解除する。

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