天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
エレベーターに乗る。

「何階?」

「一番うえ」

おお。さすが。

最上階のボタンを押してしばし到着するまで黙って待つ。

ポーンと到着の合図と共にエレベーターが開いた。

律がドアの前で私を見下ろす。

あ、開けろってね。
はいはい。

私はキーをかざしてドアを開ける。

「さんきゅ」

律に続いて私も中に入った。

センサーでライトが自動で点灯する。

リビングに入れば本当に何もない。

「ははは。本当にピアノしかないじゃん」

「そうだよ。だから言ったろ」

ドサッと荷物を降ろす。

「あー、椅子なかったな。翠こっち」

そう言ってピアノの椅子に私を座らせようとする。

「いや、いいよ」

こんな大事なピアノの椅子に座れないよ。




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