天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
するとその手を止められる。

「擦りすぎ」

ははは。
よく丈慈にも言われるんだった。

「ありがとう。本当に」

そう言えば律はまた鍵盤に手を乗せた。

そして今度は激しい超絶技巧を披露する。
そのあまりの緊迫感に思わず息を飲む。

こんなに人間の指って動くの?

荒々しく怒りすら感じるようなそんな演奏だ。
最後にダーンと低い音で演奏は終わった。

「す、凄いね」

「いや、今のは全然だめ」

え?
どこが?

「翠、好きな曲あるか? クラシックじゃなくても」

私は携帯を出して、昔から好きな洋楽を流した。

律はそれを聴きながらたまにポーンと鍵盤に指を置いたりしている。

「いいね。ファイトソングだな」

そして聴き終わった律が、見事にそれを忠実に再現し演奏し始めた。

「凄い! すぐ弾けるの!?」

「はは。こういうのも楽しいだろ?」





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