天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
そうだった。

俺とした事が。
翠は怪我してたのに。

全く配慮ができてなかった事に申し訳なさで一杯になった。

そして財布に絆創膏を入れてると思いきや、代わりに入っていたのは念の為に入れていたゴムだった。

翠を見ればバッチリ目が合い、見られていた。

俺はとりあえず何もなかったように財布をしまう。

そして寝室へ行って、持ってきていたバックパックの中をガサゴソと探すと、違う財布に絆創膏が入っていた。

こっちの財布かよ。

自分の中途半端な記憶力を恨む。

一瞬気まずくなるかと思ったが、翠は気にする様子もなく普通だったので俺も気にしない事にしたのだった。


ハンドルに突っ伏した顔を上げエンジンをかける。

翠ってもっとこう、高飛車な女かと思ってた。
久しぶりだったな。
あんな風に笑ったのは。

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