天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
指定された席は、ちょうど真ん中あたりのとても良い席だった。

続々とホールに人が集まって着席していく。

こんな広いホールなのにどんどんと席が埋まっていくところを見ると、なかなかチケットが取れないって言ってたのは本当だったらしい。

そしてあっという間に会場は満員御礼となった。

なんだか逆に申し訳ないな。
少しくらい予習も兼ねて、動画でも見てくれば良かったかな?

こんな何も知らない状態で聴きに来て良かったのだろうか。

そんな事を思っていれば会場が暗転し、下がっていた立派な刺繍が施された重厚な緞帳がゆっくりと上がり、会場からは拍手が上がった。

私も一応手を叩いてみる。

そこには一台のグランドピアノが静かに佇んでいた。
< 9 / 311 >

この作品をシェア

pagetop