天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
「勘違いさせてごめんなさい。あなたの事は好きじゃありません」
私は頭を下げた。
「翠。そんな事言うなよ。恥ずかしいだけだろ?」
そう言って私の肩に手を置く将生に、ゾクっと鳥肌が立った。
「やめて。離して」
触らないで。
「お前程の女抱いたら他の女なんて抱けないんだよ。お前のせいだぞ」
は?
「人が下手に出てりゃよ。黙って抱かせろよ」
気持ち悪いっ!
「おい。俺の女に何かようか? これ以上迷惑行為を続けるなら警察呼ぶぞ?」
私は慌てて振り返ると、丈慈がいた。
「んなっ!? 警察!?」
「ああ。お前がしてる事はそういう事だ。わかったならさっさと去れよ。二度と翠に近づくな。行くぞ、翠」
あ、ちょっ!
丈慈にグイグイ車に乗せられてしまう。
「たくよ、何してんだお前」
「いや、ちゃんと諦めてもらったはずだったんだけど…」
「はぁ。帰るぞ」
あー、いや…
律があっちで待ってるから…
と思ったら、ブォンといって私たちが乗る車の横を律が見向きもせずに通り過ぎて行った。
え…
携帯を見ても何も律からは連絡は入っていない。