天才ピアニストは愛しい彼女を奏でたい
「おし。あいつん家行くぞ」

え?
ちょっ!

「行ってどうすんの!?」

「俺からも兄貴だって言う」

「わかった」

すると何も言ってないのに律のマンションまで来てしまった。

「ここだろ?」

バレている。
私はコクっと頷いた。

ドキドキしながらエントランスで部屋の番号を押す。

『どうぞ』

律はそう言って解除してくれた。
丈慈と顔を合わせてエレベーターに乗る。

「ちゃんと言ってよ?」

「わかってるよ」

そして部屋まで行ってインターホンを鳴らす。

「あ、律!」

「入って」

律の顔からは何を考えているのかいまいち読み取れない。
そして丈慈と部屋に入る。
まだ何も届いていなくてガランとしている。

「あー、鶴宮くん」

丈慈が口を開く。

「律でいい」

「んじゃ俺の事も丈慈で。俺たち同い年だし」

「そうなのか?」

「ああ。それでだ。すまなかった。俺はコイツの兄貴だ。んでもってパリの時もキスなんてしてない。まつ毛が入って取ってやってただけ。言っちゃなんだが、俺は妻一筋だ」

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