政略結婚が、恋になるまで
1.プロローグ
教会のステンドグラスから光が差し込む。厳かに、これから始まる結婚式を祝福するかのように。
真っ白なドレスを着た私は、祭壇の前に立っている。手に持った白い花のブーケを握り締め。
参列者のひそひそしたざわめきが後ろから聞こえる、新婦側と新郎側とそれぞれに。
私はさらに、ブーケをぎゅっと握り締めた。
花婿の支度が少し遅れていると知らせがきたのは、先ほど。花婿はまだ来ない。けれど、これから来るはず。
不意に新郎側の参列者のざわめきが大きくなった。思わず振り向けば、礼装の誰かが声を上げた。
「花婿が駆け落ち?そんな馬鹿な!」
その一言に、教会が騒然となった。
私は呆然と立ち尽くす。
聞こえたはずの駆け落ちという言葉が、ただ信じられない。
そんな私に向けれられる、好奇、憐み、蔑みの視線に気づき、思わず両手で顔を覆いうつむいた。
だって。
こういう場合の花嫁は、嘆くものでしょ。
絶望だってするかもしれない。
でも私には、そんな表情はできそうにない。
だって、この三日ずっと願っていた。
ずっと、ずっと、願っていた。
でも、それは悟られないほうがいい。
私がこんなことを思っているなど。
――助かった、と。