~なぜなら私は、悪女ですから~国外追放された悪役令嬢は、過去に戻って罪滅ぼしをするつもりが、第3王子に溺愛されています

「愛しのロザリー。私はいつだってあなたの味方よ。もっとたくさんお話したり、お世話をしてあげたかった。この極寒の地で必死に生きてきて良かった。本当に良かった」

「死なないで! 私のそばにいて! 私にはあなたしかいないのに!」

「来世も、あなたの母親でいさせてね。そして今度はずっと……一緒に……」

 アリッサの手がパタリと床に倒れる。
 心臓に耳を当てたが、再び動くことはなかった。

「アリッサ……! お母様――!」

 私はアリッサを優しく横たわらせて、こっそりと部屋から出ようとしている男に向かって叫んだ。

「よくも……よくも!」

 男はふっと嘲笑って荷を下ろし、指を鳴らす。

「なんだよやんのか。せっかく見逃してやろうと思ったのによ。植物が育たないこの地でお前は能力無しの俺と同じだぜ。勝てると思ってんのか?」
「それでもいい。お母様の敵をここで討つ!」


 誰が見ても勝敗は目に見えていた。
 男はボロ雑巾のようになった私に唾を吐いた後、塔から出ていった。

 どうやら肋骨が折れたらしい。
 すごく痛いはずなのに、意識がぼんやりとするせいかあまり感じない。
 私は床に這いつくばって、どうにかアリッサの手を握ることができた。

「なぜ自分がこんな目に合わなくてはならないのか。はじめはそうと思っていた。絶対に皆に報復すると言い、自分の行いを改めることさへもしなかった。アリッサ。あなたに会って変わった。自分の行いを思い返せば、この仕打ちは当然だって気づいたの」

 そう、私の素行の悪さが不幸の歯車を回してしまったんだ。

 もっと早くに自分の行いを改められたら、あんなことに利用されることはなかったはず。
 私が吐き戻し草を入れようと思わなければ、悪いことを思いつかなければ。
 
 そしたらマーガレットも、アンジェロ様も、アリッサも死ぬことはなかったのだろう。

 だがそんなことを考えていても、もうなにもかも遅い。
 私のせいで、三人は死んでしまったのだ。
 
 だが今、私が改心したところで、何も始まらない。終わりへのカウントダウンがすぐそこに迫ってきている。
 こんな悲惨な終わりを迎えるくらいなら、彼とマーガレットが結ばれて幸せになってる方が良かった。

 そして私はサイガーダへ行ってアリッサを解放し、二人でどこか穏やかなところで暮らす。

 これで皆ハッピーエンドだ。

 今だからそう思える。
 心から彼らの幸せを想うことができる。

 もう今更……本当に今更だけど……。

「神様。善人の彼らは天国、悪人の私は地獄へ行くのでしょう?お願い。私に来世があるのなら次はいい子になる。だから、次こそはこんな悲惨な終わりにしないで……次こそは……」

 私は瞼が次第に重くなり、ここで意識を失った。
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