悪名高きロザリンドが英雄になったわけ

第11話 あの方


「お、おはようございます。ダース王子」

 マーガレットに意識を向けていたせいか、うしろの気配に気が付かなかった。
 要注意人物であるダース王子。
 また適当に言葉を考えてこの場から逃げるしかない。

 茂みに隠れている彼女の顔は覚えた。
 本当はすぐにでも問い詰めたいが後にした方が良さそうだ。

「さっきのは雷ですか? にわか雨での降るのかしら。嫌ねぇ、では私はこの辺で」

「アンジェロ兄様に言わなくていいのかい? 食堂でフェードルス伯爵令嬢を助けたこと」

 彼も食堂にいたのか。
 アンジェロ様でも気づかなかった私の種弾きに気づいたなんて、なんという動体視力の持ち主だろう。
 いやいや、関心している場合ではない。
 
「たまたま種で遊んでいたら、マーガレットのトレイに当たっただけですわ。なぜ私があの田舎臭い彼女を助けないといけないのです?」

「さっきも助けようとしたろう? 避けられていたが」

「……」

 私をストーカーでもしているの?と疑ってしまうほど彼は私をよく見ている。
 私は必死で言い訳を考えたが、いい言葉が思いつかない。

「そ、それは」

「また言い訳を考えて逃げようとしているね」

「そういうわけでは」

「!」

 ダース王子が何かに驚くと、咄嗟に私の肩を掴んだ。

「危ない!」

 ヒュンッ。

 アンジェロ様によって破壊された机の破片が、私に向かって飛んできた。
 破片はまた方向を変えてこちらにやってくる。
 ダース王子が鞄から短剣を取り出すと、飛んでくる破片を弾いていった。

「誰だ!」
「あの茂みにいる女子生徒です! 絶対に捕まえる!」

 私とダース王子は茂みに隠れている女子生徒に向かって走る。
 彼女は急いで逃げようとしていた。

「そうはいかないわ!」
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