悪名高きロザリンドが英雄になったわけ
この場にいた誰もが驚いた。
アンジェロ様が仲裁に入る。
「なぜ彼女をぶつんだ! 酷いじゃないかロザリンド。謝るんだ」
「この私が危険な目に遭ったのよ。それに噂ではマーガレット、あなたのせいだって言うじゃない。これはとんだ巻き込まれだわ。謝るなら、彼女が私に謝るべきよ」
私は軽蔑した目でマーガレットを睨みつける。
アンジェロ様は謝ろうとしているマーガレットを遮った。
「謝るなら僕が謝ろう。彼女は僕のせいで危険な目に遭ったのだから」
「アンジェロ様……! いいえ、私がいけないんです」
「君は何も悪くない。マーガレット」
アンジェロ様は私に向かって、頭を垂れた。
「すまなかった。マリーティム公爵令嬢。だから、頼む。マーガレットを許してあげて」
「ふん。アンジェロ様がそこまで言うのなら許して差し上げましょう。次、私を巻き込んだりしたら承知しませんわ!」
私は迫真の演技を見せた後、医務室から出ていった。
「ロザリンド」
ダース様が私を追いかけてくる。
私はそれを無視して、足を引きずりながら歩いていたがダース様が私の腕を掴んで引き留めた。
「なぜ本当のことを言わないんだ。わざと彼女にあんなことをして。なぜわざわざ悪役になろうとしているんだい」
「私のことは放っておいてください」
「放っておけない」
私は王子の手を振り解いた。
「それならあなたの口からアンジェロ様におっしゃったらどうですか? 皆さんの前で仰っても構わないですのよ。あの意地悪な、高飛車でプライドの高いロザリンドが人助けをしたと。それも、ど田舎に住むどこの馬の骨とも知らない冴えない伯爵令嬢を、あのマリーティム公爵の娘が……一体誰がそんなこと信じると?」
「……」
「私はロザリンドです。皆が私を恐れているあのロザリンドです。それ以上でもそれ以下でもない。私はこのままでいいのです。このままで。それでは失礼します。お優しいダース王子」
そうだ。
ロザリンド。
お前は悪女なのだ。
その重い枷を簡単に外そうなど思ってはいけない。
忘れるな。
忘れるな。
これは償い。
私は悪女のままでいいのだ。