悪名高きロザリンドが英雄になったわけ

第19話 暖めよう、君を


「離してください。さっきの私の話聞いていなかったのですか?」

「聞いていたよ」

「それなら……」

 ダース王子は抱いている手にさらに力を込める。

「ロザリンド。君は償いのためにこうして影で人を助けることにしたんだね」

 私は何も言えなかった。
 なぜ彼はこうもわかってしまうのだろう。
 隠しても隠しても彼の目はお見通しなのだろうか。

 私はやっとのことで口を開く。

「悪女なのは変わりません。私は知らないうちにたくさんの人を傷つけ陥れた。そんな女に優しくするなど愚かです。ダース王子」

「私は、昔の君には興味がない」

 王子はどこまでも澄み切った空色の瞳で私を見ていた。

「今の君に恋しているんだよ」

「……!」

「もう話さなくていい。暖めよう、君を。とても冷たくなっている。さぁ、少し休むといい」

 言い返そうとしたが一気に眠気が襲いかかり、私は気絶したように目を瞑った。

 温かい。
 寒さが、恐怖が、だんだんと和らいでいくのを感じる。
 まるで春の日差しのように私の心を穏やかにしていった。
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